第36話:戦後の新時代。――「国境線」が邪魔だったので、ブルドーザーで均しておきました¥
神との検収会議を終え、世界保存アーカイブを「カイポリス・クラウド」として私物化した僕は、地上へと帰還した。
王都ハイランドは、僕が王宮を更地にしたおかげで、今や巨大な建築資材の集積場へと変貌している。
「……さて。神様は『不完全だから成長する』なんて言ってたけど、現場監督からすれば、不完全な道は事故の元でしかないんだよね」
僕は広大な大陸地図の上に、真っ赤な太線を一本、迷いなく引き下ろした。
それは、聖王国ハイランドから、かつての敵国であった北の帝国、そして西の海洋連合までを最短距離で結ぶ、総延長五千キロメートルの「超特急リニア専用軌道」の予定ルートだ。
「カ、カイ様……。そのルート、標高八千メートルの『聖山山脈』を真っ二つに貫いていますが……」
リリスが、震える指で地図を指差す。そこは数千年間、険しい地形ゆえに「国境」として機能し、多くの紛争の火種になってきた場所だ。
「険しいなら、削ればいい。……国境があるから、情報のラグ(遅延)が起きて、マナの分配が偏るんだ。……バルガスさん、カイポリスの『大陸横断・掘削艦隊』を動かして。……邪魔な山は、全部トンネルにして、その土砂で海を埋め立てて新しい居住地を作る」
「がはは! 景気のいい話だ! 野郎ども、国境線を消しに行くぞ! 物理的にな!」
ドワーフたちの歓喜の咆哮と共に、巨大なドリルを備えた掘削艦隊が砂塵を上げて進軍を開始した。
***
数日後。聖王国と隣国の間にそびえる「不落の絶壁」の前に、僕は立っていた。
両国の国境警備隊が、突然現れた巨大重機軍団に武器を向けて震えている。
「……止まれ! ここから先は神聖なる国境――」
「退いてくれ。今からここ、通路(廊下)にするから」
僕はレバーを引いた。
ガイア・クラッシャーの超高周波ドリルが、数万年鎮座していた絶壁に突き刺さる。
ズドォォォォォォォォォォォォン!!
魔法の障壁も、物理的な岩盤も関係ない。
僕が求めているのは「勾配のない、滑らかな床」だけだ。
数分後、絶壁には巨大な円形の穴が開き、その向こう側にある「隣国の景色」が、トンネルの出口として眩しく光った。
「……な、なんだと。……我が国の誇る天然の要塞が……ただの『穴あきチーズ』に……」
崩れ落ちる警備隊を尻目に、僕は舗装用のゴーレムを投入する。
「……レオン。そこに立ってても邪魔だ。……ほら、これを持って。トンネルの中の『非常電話』の設置位置をマーキングして回れ。……一箇所でもズレたら、給料天引きだからね」
「……俺は、いつになったら剣を振らせてもらえるんだ……っ!」
剣ではなく、マーカーを持たされた元聖騎士を置き去りにし、僕はさらに奥へと進む。
国境という「バグ」を物理的に均し、世界を一つのネットワークで繋ぐ。
それは神への宣戦布告であり、僕が作る「新しい世界」の基礎工事だった。




