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第37話:大陸横断リニア、開通。――切符の買えない国王は、無賃乗車で強制労働行きです

聖山山脈を貫通した巨大なトンネル。その内部には、カイポリス特注の「超電導魔導レール」が、深淵へと続く光の筋のようにどこまでも伸びている。

 かつては徒歩で三ヶ月、馬車でも半年かかった大陸横断ルートが、今、時速六百キロメートルで駆け抜ける「廊下」へと変貌した。


「……カイ様、始発駅セントラル・ハイランドのプラットフォーム、準備完了しました。……ですが、あちらを。各国の王族たちが、『自分たちの領土を無断で通過させるとは何事だ』と詰めかけています」


リリスが困り顔で指差す先には、着飾った貴族や、軍隊を引き連れた近隣諸国の国王たちが、完成したばかりの駅舎の入り口で騒ぎ立てていた。


「無断も何も、世界保存アーカイブによれば、この大地の所有権は『世界システムの維持管理員』……つまり僕にあるんだ。不法居住者に文句を言われる筋合いはないんだけどね」


僕はヘルメットを小脇に抱え、騒ぎの中心へと歩み寄った。


「……そこをどけ、無礼者! 私はポルタス王国の王であるぞ! 我が国の領土を貫くこの鉄の道を、直ちに明け渡せ! さもなくば――」


「さもなくば、何? ……王様、君はこのレールの『維持費』がいくらか知ってる? 一メートルあたり、君の国の年間予算の一割が飛ぶけど。……払えるなら、管理を委託してあげてもいいよ」


「な……っ!? そ、そのような法外な……!」


「払えないなら、客として乗りなよ。……あ、でもリニアの乗車券は、カイポリスへの『労働貢献度』か『資源提供』でしか決済できないんだ。……ちなみに王様、君の持っているその金ピカの王冠。……リニアの『ボルト』三本分にしかならないけど、どうする?」


王は絶句し、顔を真っ赤にして震え出した。


「……バルガスさん、発車ベルを鳴らして。……一秒でも遅れたら、この世界のダイヤが狂う」


「おうよ、親方! ……一番列車『カイポリス・ノア』、定刻通り発車だぁ!!」


巨大な電子音が響き渡り、流線型の白い車体が、音もなく滑り出した。

 摩擦のない超電導。加速のGを感じさせない慣性制御。

 窓の外の景色が、一瞬で光の尾となって消えていく。


「……う、うわぁぁぁ!? なんだ、この速さは! 景色が……景色が溶けていくぞ!」


強引に試乗させたレオンが、窓に張り付いて叫ぶ。かつて彼が聖騎士として何日もかけて遠征した距離が、瞬きする間に通り過ぎていく。


「……レオン、これが『インフラ』の力だよ。……君が剣で守ろうとしたものは、この速度の前では止まっているも同然だ。……あ、そうだ。無賃乗車で乗り込んできたあの王様たち。……リリスさん、次の駅で降ろして。……あそこにはまだ『リニア用の変電所』を建設中だから、完成するまで資材運びの手伝いをさせておいてよ」


「……えっ、国王を工事現場へ……ですか?」


「当然だよ。……タダで世界を移動できるなんて思ったら大間違いだ。……動いた分だけ、世界に価値を還元してもらう。……それが現場監督ぼくのルールだ」


リニアは、国境という名の壁を軽々と超え、大陸の反対側にある「西の海洋連合」へと、わずか数時間で到達しようとしていた。


しかし。

 順調に最高速度に達したその時、運転席のモニターが赤く点滅した。


『――警告。……前方の空間に、設計図にない「未知の障害物」を検知。……物理的干渉ではなく、概念的な「行き止まり」です』


「……概念的な行き止まり? ……まさか」


僕が窓の外を睨みつけると、そこには、突き抜けたはずのトンネルの出口を塞ぐように、「真っ白な壁」が空間そのものを塗り潰して立ちはだかっていた。


「……神様。……やっぱり、検収リフォームが気に入らなかったみたいだね」


僕は、懐からスパナではなく、設計図を上書きするための「管理者用ペン」を取り出した。


「……いいよ。……なら、その『世界の果て』ごと、更地にしてやる」


大陸横断の旅は、ここから「世界の壁」との激突へと発展しようとしていた。

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