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第35話:神様との検収会議。――「この世界の設計、バグだらけですよ?」

空間が磁器のようにひび割れ、その裂け目から溢れ出したのは、物理法則を無視した「純粋な白」だった。

 クロノス・チェンバーの黄金の歯車が、まるでおもちゃのように小さく見えるほどの圧倒的な存在感。光の向こう側に座していたのは、性別も年齢も超越した、半透明の巨影――この世界の設計者デザイナーだった。


「……よくぞ、ここまで修復した。我が名は『創造の意志』。放置され、滅びを待つのみであったこの箱庭を、まさか人の子が救うとはな」


神の声は、耳ではなく直接魂に響くような重圧。レオンはもはや気絶し、バルガスやリリス、セレナまでもが、あまりの神性に気圧されて膝をついている。


だが、僕は一人、ヘルメットを脱いで脇に抱え、真っ直ぐにその光を見据えた。


「……施主さん。お出ましになるのを待ってましたよ」


僕は懐から、泥と油で汚れた一冊のバインダーを取り出した。アーカイブで見つけた「元の設計図」と、僕が現場で書き足した「修繕記録」をまとめたものだ。


「……修復した、なんて甘い言葉で済ませないでほしいな。……この世界、控えめに言って『欠陥住宅』ですよ」


「な……何だと?」


神の光が、驚きに微かに揺れた。


「第一に、マナの循環システム。排気弁(嘆きの火口)の耐久性が低すぎる。数千年も使えば目詰まりするのは自明でしょう。第二に、深海の排水構造。フィルターも通さずに地底へ還す設計なんて、今の時代じゃ通りませんよ。……そして最大の問題は、ハイランド家に『管理権限』だけ渡して、『管理マニュアル』を渡さなかったことだ」


僕はバインダーを神の足元――いや、光の境界に叩きつけた。


「あんたが放置して、僕の先祖たちが苦労して、挙句の果てに僕が追放される羽目になった。……この数千年の『放置期間』にかかった延滞利息と、今回の緊急工事費。……どうやって清算してくれるんですか?」


「…………。クク、クハハハハ!!」


神が笑った。空間が振動し、星々が明滅するような哄笑。


「面白い。数多の世界を見てきたが、創造主を前にして『請求書』を突きつける職人は初めてだ。……よかろう、カイ・ハイランド。其方の言い分はもっともだ。……だが、一つだけ言っておく」


神の影が、巨大な指を僕に指し示した。


「この世界がバグだらけなのは、意図的だ。……不完全であればこそ、そこに住む者たちが知恵を出し、争い、成長する。……其方のような存在が現れるのを、私は待っていたのかもしれぬ」


「……成長のためのバグ? 冗談じゃない。……現場監督にとって、バグはバグ、ミスはミスだ。……あんたが『試練』と呼ぶもののせいで、今日死ぬはずじゃなかった人間が何人いたと思ってる」


僕はスパナを握り直した。


「検収結果は『不合格』です。……だから、僕はこれから、あんたの作ったこの『古臭いシステム』を根底から書き換える。……神様が口出しできないくらい、完璧で、頑丈で、誰でもメンテナンスできるインフラを、全大陸に敷き詰めてやる」


「……それが、其方の『答え』か」


「ああ。……だから、もう消えていいですよ。……これからの工事に、神の奇跡(ご都合主義)は邪魔なだけだ」


僕が言い放った瞬間、神の巨影は満足げに、そして静かに霧散していった。

 後に残されたのは、完璧に調整された世界の心臓部と、気絶から目覚めかけた仲間たち。


そして、僕の手元のアーカイブに、新しい「プロジェクト」が自動生成された。


『――第2部:【全世界・標準化工事グローバル・インフラ・スタンダード】――』


「……さて。神様との会議けんしゅうも終わった。……みんな、起きろ。……次は、国境を消すための『大陸横断・超特急リニア』の敷設工事に入るぞ」


第1部の終わり。それは、カイ・ハイランドが一国の英雄ではなく、「世界の総監督」として君臨する物語の始まりだった。

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