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第30話:世界修繕計画、始動。――最初の現場は、マナが逆流する「嘆きの火口」

王都の地下深く、青白い光に満ちた「世界保存アーカイブ」。

 そこには、人類が数千年の間、一度も目にすることのなかった「世界の設計図」が、修復不能を告げる警告灯を無数に明滅させて横たわっていた。


「……信じられない。私たちが歩いてきた大地の下に、こんな精密な『機構』が隠されていたなんて」


リリスが、空中に浮かぶ膨大なデータの奔流に指を触れる。

 そこには、大陸を流れる河川の流量、大気中の魔素濃度、そして地底を巡るマグマの熱量までが、一本の誤差もない数式として記述されていた。


「……設計者は、この世界を『自浄作用のある完璧な機械』として作ったんだろうね。でも、どんな機械もメンテナンス(保守点検)を怠れば壊れる。……レオン、君たちが誇っていた『聖王国の歴史』は、この機械の上に勝手にテントを張って、勝手に配線をいじくり回していたようなものだよ」


「…………」


レオンは、もはや反論する力も残っていないのか、真っ白な設計図の海をただ呆然と見つめていた。

 彼が守ってきた「騎士団」という組織は、この巨大なシステムの管理という本来の任務を忘れ、特権階級としての権力に溺れていただけだったのだから。


「……カイ。嘆いている暇はないわ。……見て、あの赤い点滅。他のエラーとは比較にならないほど、地脈の圧力が異常上昇している場所がある」


セレナが指差したのは、北の大陸の最果て。

 かつて世界で最も豊かなマナを噴出していたとされる聖山、通称『嘆きの火口クライング・クレーター』だった。


「……ああ。そこが今回の『現場』だ。……本来、地上のマナを循環させるための『排気弁』だった場所が、経年劣化による目詰まりを起こし、逆に地脈の圧力を逆流させている。……このままだと、あと一週間で山ごと吹き飛んで、北大陸の半分がマナの爆発で消滅する」


「な……一週間!? そんな短期間で何ができるというのだ!」


レオンが叫ぶが、僕はすでにタブレットで、カイポリスへの指令を打ち込み終えていた。


「一週間あれば、ダム一つ作れる。……バルガスさん、カイポリスの『大型魔導ボーリングマシン』を全機、航空輸送エア・リフトして。……リリスさんは、汚染されたマナを中和するための『神聖中和剤』を三万バレル、至急発注」


「了解です、カイ様! 各ギルドへ緊急調達の指示を出します!」


「……カイ。私たちも行くわよ。……一週間で『世界の寿命』を延ばしてみせるわ」


セレナの瞳に、狩人の鋭い光が戻る。


***


数日後。僕たちは北の大陸、極寒の地にある『嘆きの火口』の山麓に立っていた。

 かつては神聖なマナが霧のように漂っていたはずの山は、今や黒い雷雲を纏い、時折、大地を震わせる不気味な地鳴りを上げている。


「……ひどいな。マナの『噴き出し』じゃなくて、完全に『逆流バックフロー』してる。……バルガスさん、見て。地表の岩盤が、内側からの圧力で膨張して、今にも破裂しそうだ」


「ああ、親方。こりゃあ、下手に掘ったら一気にドカンだぜ。……慎重に『ガス抜き』をしねえと、俺たち全員が消し炭だ」


ドワーフの熟練工たちですら、その異様な光景に怖気付いている。

 だが、僕はヘルメットのバイザーを下げ、背中に背負った「初代ハイランドのスパナ」に右手をかけた。


「……普通の掘削じゃ間に合わない。……だから、山ごと『手術』する」


僕は山の斜面に手を当てた。


【固有権能:全領域・応力緩和プレッシャー・コントロール――『緊急排気ピット』着工】


ゴォォォォォォォ……ッ!!


山全体が、生き物のように震え出す。

 僕は地下数千メートルを流れるマナの奔流を、自分の神経のように感じ取っていた。

 どこを削れば、爆発を回避できるか。

 どこを補強すれば、この山を救えるか。


「……バルガスさん、一点集中だ! 僕が道を作る。その瞬間に、中和剤を流し込んで! ……一秒でも遅れたら、この山は世界の終わりの『点火スイッチ』になるぞ!」


「おうよ! 任せろ、親方ぁぁぁ!」


極寒の吹雪の中、カイポリスの重機軍団と、世界の運命を背負った一人の土木師が、神話の山への「緊急オペ」を開始した。


これはもはや、単なる開拓ではない。

 神が作り、人間が壊した「世界の歯車」を、泥にまみれたスパナ一本で噛み合わせ直す、絶望と希望の闘いだった。

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