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第29話:開かずの間、開城。――地下に広がる「世界保存アーカイブ」と、失われた設計図

解体された王宮の跡地、その真ん中に剥き出しになった鉄のハッチ。

 レオンたち騎士団が「王国の魂」と信じて疑わなかった豪華な建物は、実はこの不気味な「蓋」を隠し、押さえつけるための巨大なペーパーウェイトに過ぎなかった。


「……カイ、待って。そのハッチから溢れ出している魔力……今までのどんな遺跡とも違う。まるで、世界そのものが呼吸しているような、重厚な圧力を感じるわ」


セレナが弓を握り直し、冷や汗を流しながら呟く。エルフの鋭い感覚が、その先に眠る「異常」を本能で察知していた。


「……ハイランド家の血を持つ僕にしか開けられない場所。じいちゃんが死ぬ間際、僕に『床下を気にするな』と言ったのは、こういうことだったのか」


僕は、ハッチの表面に刻まれた複雑な幾何学模様の中央に、右手を置いた。

 ――【固有権能:管理者認証ログイン・バイオメトリクス】。


カチッ、という小さな、だが芯に響くような音が鳴り、数千年もの間、一度も回ることのなかった巨大な歯車が、地底深くで重い悲鳴を上げながら回転を始めた。


ゴォォォォォォォ……ッ!!


ハッチが左右にスライドし、そこから現れたのは、真っ暗な穴ではなく、眩いばかりの青白い光が充満した「垂直の回廊」だった。


「……なんだ、これは。王宮の地下に、こんな広大な空間が……」

 レオンが膝をついたまま、呆然と光の穴を見つめる。


「レオン、君たちの歴史なんて、この世界の設計図プランからすれば、ほんの数ページの書き込みに過ぎなかったんだよ。……バルガスさん、照明ドローンを先行させて。リリスさんは僕の左側、セレナさんは右側の警戒をお願い」


僕たちは、自動で形成された光の階段を降り、地下数百メートルへと一気に下降した。


たどり着いた先は、想像を絶する光景だった。

 そこは、どこまでも続く巨大な「書庫」のような空間。だが、並んでいるのは本ではない。数千、数万という「浮遊する魔導クリスタル」のアーカイブだ。

 それぞれのクリスタルには、大陸の地形、河川の流れ、地脈のエネルギー循環……この世界の「インフラの全データ」が、リアルタイムで投影されていた。


「……見て、カイ様。あそこのクリスタル、真っ赤に点滅しています!」


リリスが指差した先。そこには、現在の世界の立体地図が浮かんでいたが、その至る所に「ERROR」という赤い文字が刻まれ、地脈のラインがブツブツと寸断されていた。


「……やっぱりだ。この世界は、もう限界だったんだ」


僕は中央のメインコンソールと思われる石壇に歩み寄り、そこに手を触れた。

 脳内に流れ込んできたのは、膨大な量の「未処理のタスク」と「放置された修繕勧告」。


「……数千年前、この世界を作った『設計者』たちは、後の人間にメンテナンスを任せて去った。……その『後の人間』っていうのが、僕の先祖、ハイランド家だった。でも、いつしか王族は自分たちが世界の支配者だと勘違いして、僕たちを『無能な管理者』として地下に追いやり、このメンテナンスルームの存在すら忘れてしまったんだ」


「……そんな。……じゃあ、俺たちが守ってきた騎士道も、王の権威も……」

 レオンの震える声に、僕は冷徹に答えた。


「ただの『不法居住者』の遊びだよ。……それより見てくれ。この『ERROR』の正体。……地底、海洋、そして空。世界の三箇所で、巨大な『魔力漏れ(リーク)』が発生している。……これを放置すれば、あと一年以内に世界中のマナが枯渇し、この惑星は文字通り『死の星』に変わる」


アーカイブの中央で、ひときわ大きく「WARNING」と叫ぶ赤い光が、僕たちの顔を照らした。

 王都の再開発どころではない。

 僕がこれから挑むのは、世界そのものの「全域大規模修繕」だった。


「……バルガスさん、カイポリスへ連絡。全工員を招集して。……これからは、一国どころか、世界を相手に工事を始める」


僕は、アーカイブの隅に落ちていた「古ぼけたスパナ」を拾い上げた。

 それは、初代ハイランド家が使っていたとされる、神話の時代の工具だった。


「……納期は一年。……世界を一人残らず生き残らせる。……これが、現場監督ぼくの仕事だ」


暗い地底で、僕の決意だけが静かに、だが熱く燃え上がっていた。

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