表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/37

第25話:王都、沈没。――「助けてくれ」と泣きつくレオンに、まずは工事申請書の書き方を教えます

天空都市ネピュラの所有権を事実上掌握し、莫大な修繕費を回収した僕たちの元に、一通の「悲鳴」が届いた。

 それは、魔導波による正規の通信ではなく、魔力を使い果たしてボロボロになった伝書鳥が運んできた、手書きの血染めの紙片。


送り主は、聖騎士団長レオン。かつて僕を「無能」と呼び、街から放り出した男だ。


「……助けてくれ、カイ。王都が、王都が食われる。お前の望みは何でも聞く。だから、戻ってきてくれ」


その文面を読み上げ、セレナが鼻で笑った。

「現金なものね。自分たちがインフラを私物化して壊しておいて、手に負えなくなったらこれ。……カイ、無視してもいいのよ? ここは標高四万メートル、彼らの手の届かない場所なんだから」


「……いや、現場が悲鳴を上げているなら、放置するのは監督失格だ。それに、バルガスさんの話が本当なら、王都の地下にある『封印』が解けかかっている。これは世界規模の二次災害ハザードに繋がる」


僕は宇宙エレベーターを急降下させ、数ヶ月ぶりに王都ハイランドの地を踏んだ。


***


かつて白亜の美しさを誇った王都は、見る影もなかった。

 地脈から逆流した「穢れの霧」が街を覆い、石畳の隙間からは不気味な触手のような根が突き出し、壮麗な建物を内側から引き裂いている。


「あ……あぁ……カイ……! 本当に来てくれたのか!」


王宮の正門前で泥にまみれ、剣を杖代わりに立っていたレオンが、僕の姿を見るなり這い寄ってきた。その背後には、空腹と汚染で疲れ果てた騎士たちの姿がある。


「見てくれ、この惨状を! 魔導炉は爆発し、地脈が暴走して街を飲み込もうとしている! お前の力で、この泥を今すぐ消してくれ!」


僕はレオンの差し出した手を無視し、腰の道具袋から一束の「書類」を取り出した。


「……何だ、それは? 魔法の触媒か?」


「いや。――【公共インフラ緊急修繕・施工申請書】だ」


「……は?」


僕は冷徹な目で、呆然とするレオンを見下ろした。


「レオン。ここはもう、君たちの王都じゃない。僕にとってはただの『倒壊寸前の危険現場』だ。無許可で勝手に手をつけるわけにはいかない。……ここにサインしろ。第一条、『本工事における一切の指揮権を現場監督カイに委譲する』。第二条、『王族および騎士団は、現場作業員(雑用)として監督の指示に無条件で従う』」


「ふざけるな! 私は聖騎士団長だぞ! 雑用などと――」


「じゃあ、帰るよ。……バルガスさん、エレベーターの逆転スイッチ入れて」


「おうよ、親方! こんな腐った現場、関わるだけ時間の無駄だ!」


僕が背を向けた瞬間、地面が大きく揺れ、王宮の尖塔が一本、音を立てて崩落した。


「待て! 待ってくれ! 書く……書けばいいんだろう!」


レオンは震える手で、泥にまみれた申請書に署名した。

 その瞬間、僕の頭の中に王都全域の「管理権限」が流れ込んできた。


「……よし。契約成立だ。……リリスさん、セレナさん。防護マスクを配布。バルガスさん、重機ゴーレムを全機、地下へ投入して。……レオン、君たちはその辺の瓦礫をどかしてろ。足元が悪いと、僕の『仕事』の邪魔になる」


僕はヘルメットのライトを点灯させ、王都の地下へ続く暗い階段を見据えた。

 そこからは、ドロドロとした黒い泥と共に、千年以上も前の「設計ミス」の匂いが漂ってきていた。


「……さあ、始めようか。王都ハイランドの『解体・再建築工事』だ。……まずは、その奥に眠っている『封印の化け物』に、不法占拠の退去勧告を突きつけてくるよ」


僕はスパナを握り直し、光の一切届かない奈落の底へと足を踏み入れた。

 

 ここからが、僕の家系が隠し続けてきた、本当の「仕事」の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ