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第26話:地下迷宮の主。――「数千年もの不法投棄、不法占拠を認めますか?」

王宮の地下、最深部。そこは、歴代の王族ですら足を踏み入れることを禁じられた「聖域」……という名の、巨大な廃棄物処理場だった。


「……っ、これはひどいな。想像以上だ」


僕は、ヘルメットに取り付けた高出力魔導ライトで、暗黒の空間を照らし出した。

 そこには、王都中の「負の魔力」や「生活排水」、さらには人体実験や権力抗争で闇に葬られた「呪いの遺物」が、ドロドロとした黒いヘドロとなって溜まっていた。


「……カイ様、この泥、意志を持っているかのように蠢いています。……これが、地上の霧の正体なのですね」


リリスが、浄化の結界を最大出力で展開しながら、嫌悪感に顔を歪める。彼女の足元、白いブーツのすぐ近くまで、悪臭を放つ「呪泥」が迫っていた。


「ああ。天空都市への排気ルートを僕が塞いだ(正常化した)せいで、行き場のなくなったゴミが逆流し、ついにこの地下施設をパンクさせたんだ。……そして、このゴミ溜めを『棲家』にしている奴がいる」


僕がライトの光をさらに奥へ向けると、そこには、山のようなヘドロを背負った巨大な「異形」が鎮座していた。

 無数の腕を持ち、顔には目がない。ただ、腐敗したマナを喰らい続けるために肥大化した口だけが、不気味に開いている。


『……オォォ……誰ダ……我ガ……食事ヲ……邪魔スル者ハ……』


「カイ、気をつけて! あれはただの魔物じゃないわ……数千年の怨念を吸い込んだ、一種の『土地神』に近い存在よ!」


セレナが、魔導銀の矢を番えて叫ぶ。


「いや、セレナさん。神様じゃない。……こいつは、このビルの『不法占拠者』だ」


僕は怯むことなく、ヘドロの海を一歩ずつ進んだ。

 足元がドロリと沈む。だが、僕は自分のブーツに【分子反発テフロン・コート】をかけている。汚れ一つ付くことはない。


『……消エロ……地上ノ……虫ケラメ……』


異形が、腐敗した魔力の弾丸を吐き出してきた。

 リリスが悲鳴を上げるが、僕は避けない。右手に持った、カイポリス製・特殊合金スパナを一閃させた。


【固有権能:不純物分解デリート・スラッジ


バチンッ! と火花が散り、魔力の弾丸は空中で「ただの水と炭素」に分解され、僕の頬を濡らす霧へと変わった。


「……さて。君、聞こえるかい? 僕はここの管理権限を持つ現場監督、カイ・ハイランドだ」


僕はタブレットを操作し、地下施設の古い「登記簿データ」をホログラムで投影した。


「第百三十七層から、この第二百層までの全域。ここは数千年前、僕の先祖たちが『一時的な魔力緩衝材の貯蔵庫』として設計した場所だ。……そこに君が勝手に住み着き、あまつさえ『不法投棄されたゴミ』をエサにして肥大化し、配管を詰まらせている」


『……知ッタコトカ……我ハ……此処ニ……永遠ニ……』


「残念ながら、更新手続きはなされていない。……君には、今すぐここを立ち退いてもらう。もし拒否するなら、強制執行(物理的解体)に移るけど?」


『……殺セ! コノ……無礼者ヲ……ッ!』


異形が逆上し、無数の腕を伸ばして僕を握りつぶそうとする。

 だが、その速度は、僕の【施工シミュレーション】の中では、スローモーションに等しかった。


「……バルガスさん、合図だ。上部の『魔導コンクリート・ミキサー』を全開放。……ターゲットは、不法占拠者の関節部」


『応ッ! 野郎ども、流し込めぇ!』


天井の通気口から、銀色の液体――【高純度・聖銀配合コンクリート】が滝のように流れ落ちてきた。


『ギ、ギャアァァァァァ!? 熱イ、熱イィィィ! 浄化サレルゥゥゥ!』


「ただのコンクリートじゃない。君のような『負の集合体』にとって、もっとも相性の悪い聖属性を練り込んだ特注品だ。……さあ、動けなくなる前に決めてくれ。大人しく浄化されて消えるか、それともこのまま王宮の『土台の一部(杭)』として永遠に埋め固められるか」


僕は、異形の目の前で、最後通告の書類を突きつけた。


地下の主が、恐怖に震えながら僕の顔を見た。

 そこにいたのは、勇者でも聖者でもない。ただ、「設計図通りに物事を進めたい」という狂気にも似た執念を持つ、一人の土木師だった。


「……納期は今日中だ。返事は?」


王都の地下で、長年放置されてきた「最大のゴミ」との戦いは、武力ではなく、圧倒的な「物理法則と掃除の論理」によって決着しようとしていた。

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