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第23話:天空の配管工事。――吸い上げた魔力の「逆流」で、王都の魔導炉が爆発寸前です

高度四万メートル、天空都市ネピュラの最下層「動力回廊」。

 そこは、豪華絢爛な地上の宮殿とは対照的な、暗く、湿った魔力の排気臭が立ち込める巨大な空洞だった。


「カイ様……これは、酷すぎます」


リリスが鼻を覆いながら、壁面に這う「管」を指差した。

 かつては透き通ったクリスタル製だったはずの魔導配管は、今や地上の王都から吸い上げ続けた「欲望と濁ったマナ」の沈殿物によって、不気味な紫黒色に変色し、脈打つように腫れ上がっている。


「……数千年間、一度も『ドレン抜き(汚れの排出)』をしてこなかった結果だね。地上の魔力を一方的に奪い続けた罰だよ、これは」


僕はヘルメットのライトを最大出力にし、配管の接合部――通称『世界を繋ぐジョイント』に手を触れた。


【固有権能:構造解析・劣化診断フル・スキャン


脳内に、この島と地上の王都を結ぶ「不可視の魔導ライン」の設計図が浮かび上がる。

 やはり、僕の推測は正しかった。

 この天空都市は、地上の聖王国ハイランドの地下にある「巨大な地脈の溜まり」を動力源としていた。そして、その『吸い上げ口』の管理を代々任されていたのが、僕の家系――ハイランド家だったのだ。


「……カイ、その配管を触っちゃダメ! 中の圧力が限界を超えてるわ!」


セレナの鋭い警告と共に、配管の継ぎ目からパキパキと不吉な亀裂の音が響く。

 中の「濁った魔力」が、今にもこの空間に噴き出そうとしていた。


「大丈夫だよ、セレナさん。……バルガスさん、準備はいいかい?」


「おうよ、親方! 地上のカイポリス工場から、最新の『高圧耐性ステンレス管』をエレベーターで運び込んであるぜ!」


後ろに控えていたドワーフたちが、巨大なクレーンを操作し、銀色に輝く新開発の配管を吊り上げる。


「よし。今からこの腐った管を切り離し、新しい系統に繋ぎ直す。……ただし、溜まった『汚泥スラッジ』の行き場所がない。……リリスさん、あれ(・・)をお願い」


「はい! 準備できています!」


リリスが、天空都市の排気孔に、巨大な『魔力中和フィルター』を設置する。

 

「いくよ。――【緊急解体:配管バイパス工事】!」


僕がスパナを振り下ろすと同時に、腐った配管の一部が霧散した。

 その瞬間、猛烈な勢いで黒い魔力が噴き出す!


「……っ、ぐあぁぁぁ!?」


噴き出したのは、王都の人間たちが数千年間積み上げてきた、負の感情を含んだ魔力だ。それが、逆流の圧力によって、本来の供給元である「地上」へと向かって、猛烈な勢いで戻り始めた。


***


その頃、地上の王都『聖王国ハイランド』。

 地下最深部にある、王宮直属の魔導炉。


「報告します! 天空からの魔力供給が途絶! ……いえ、違います! 天空側から『黒い魔力』が逆流してきています!」


「何だと!? 逆流などありえん!」


レオンが魔導炉に駆け寄った瞬間、巨大なクリスタルが不気味に黒ずみ、激しい放電を開始した。

 ドォォォォォン!! という振動と共に、王宮の床が大きく揺れる。


「……だ、団長! 魔導炉の圧力が限界です! このままでは、王都そのものが魔力爆発で消し飛びます!」


「カイ……! カイ、貴様の仕業か! お前は何を……空で何をしているんだぁぁぁ!」


真っ暗な王都の中で、レオンの絶叫だけが響き渡る。

 

 ***


再び、天空都市。


「ふぅ。……逆流防止弁チェックバルブ、設置完了。……リリスさん、フィルターの状況は?」


「完璧です、カイ様! 汚れた魔力はすべて浄化され、純粋な『光の粒子』として宇宙へ放出されました!」


僕の目の前には、新しく繋ぎ直された銀色の配管が、静かに、そして力強く魔力を循環させ始めていた。

 天空都市の揺れが止まり、反重力機関が「本来の輝き」を取り戻していく。


「……よし。これで天空都市は墜落しない。……その代わり、地上の王都は、自分たちの『汚れた魔力』の後始末に追われることになるだろうけどね」


僕は、汗を拭いながら地上を見下ろした。

 四万メートルの下。かつて僕を追放したあの街が、今、自分たちが生み出した「ツケ」によって大混乱に陥っている。


「……あ。伏線といえば、バルガスさん。この配管の奥に、何か『文字』が刻まれてるんだけど……見覚えある?」


僕が指差した先。

 天空都市の心臓部にあたる巨大な基盤に、古代文字でこう刻まれていた。

 ――『ハイランド家、第十七代管理者の承認ログインを待機中』。


「……これ、僕のじいちゃんの名前じゃないか」


なぜ、僕の祖父の名前が天空都市の心臓部にあるのか。

 僕が「無能」と呼ばれ、王都の地下管理を押し付けられていた本当の理由。

 その巨大な陰謀の輪郭が、天空の雲を晴らすように、少しずつ見え始めていた。

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