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第20話:水の都の利権屋。――「公共事業」に口を出す者は、全員コンクリートで固めます

砂漠のど真ん中、数千年ぶりに蘇った「聖水の噴水」の周囲には、わずか数時間で奇跡のような緑のオアシスが広がっていた。

 だが、その潤いに惹かれてやってきたのは、砂漠の民や動物たちだけではなかった。


「……止まれ! 止まれと言っているのだ、この無礼者がッ!」


静寂を切り裂くような怒声と共に、黄金の装飾が施された豪奢な馬車と、白銀の鎧に身を包んだ百人近い重装歩兵が、僕たちの「現場」に乱入してきた。

 先頭に立っているのは、派手な法衣を纏い、太った指にいくつもの魔導リングを嵌めた男だ。


「……カイ様、あの方々は……宗教国家ルミナスの『水利権管理局』の紋章をつけています。この大陸のわずかな水源を独占し、高値で売り捌いている強欲な組織です」


リリスが僕の背後に回り、警戒を強める。彼女の瞳には、同じ聖職者として、あるいはインフラを預かる身としての、隠しきれない嫌悪感が浮かんでいた。


「ふん。……貴様が、勝手に『神の栓』を抜いたという土工か」


管理局の男――枢機卿を自称する男が、僕のヘルメットを汚いものでも見るかのように一瞥した。


「ここ一帯の水源は、古代より神が我らルミナスに管理を託された聖域である。それを許可もなく掘り返し、あまつさえ下賤な民に無償で開放するなど……万死に値する冒涜だ!」


「……管理? 君、今『管理』って言った?」


僕は、バルブの流量計をチェックしていた手を止め、ゆっくりと男に向き直った。


「そうよ! この水は『聖水』として選ばれし者にのみ与えられるべきもの。貴様のせいで、我が国の水市場は大暴落だ! この損失、どう落とし前をつけるつもりだ!」


「……なるほど。落とし前、ね」


僕は足元の地面に視線を落とした。

 僕の測量眼スキャンは、この男たちの後ろに控える兵士たちが、隠し持った「魔導爆弾」を配管の急所に仕掛けようとしているのを捉えていた。

 彼らは、自分たちが独占できないなら、この貴重なインフラごと破壊してしまおうと考えているのだ。


「あのさ。……現場で一番やっちゃいけないのは『図面も読めない素人が、他人の仕事にケチをつけること』。そして、二番目にいけないのは――」


僕はポーチから、現場用の『魔導コンクリート混合噴射器』を取り出し、カチリとダイヤルを最大に回した。


「『安全第一の現場で、テロ行為を働くこと』だ」


「何をブツブツと……! 構わん、その不敬な土木師を捕らえよ! 抵抗するならその場で肉塊に変えて――」


「【全自動・急速硬化インスタント・セメント――施工開始】」


僕がトリガーを引いた瞬間、噴射器の先から、七色に輝く特殊な液体コンクリートが放たれた。

 それは生き物のように空間を跳ね、突撃してきた兵士たちの足元を、瞬時にして飲み込んでいく。


「なっ……!? 足が、抜けない!?」

「バカな、水のように柔らかかったはずが、一瞬で岩より硬く……っ!」


ただのセメントじゃない。僕が魔力を練り込んだ『分子結合促進コンクリート』だ。固まる際の収縮熱を抑えつつ、硬度はダイヤモンドに匹敵する。


「……あ、無理に動かない方がいいよ。靴だけじゃなく、皮膚の細胞までガッチリ定着するように設定してあるから。無理に引き抜くと、足の裏を現場に置いていくことになる」


わずか十秒。

 百人の精鋭兵士たちは、腰までコンクリートに埋まった状態で、砂漠のど真ん中に「彫像」として固定された。


「ひ、ひぃぃっ! 貴様、我らルミナスを敵に回して、タダで済むと思っているのか!」


一人取り残された枢機卿が、震える指で僕を指差す。


「ルミナスか。……リリスさん、本国に電信を送っておいてくれる? 『不法占拠者および工事妨害者の身柄を確保した。引き取りたいなら、これまでの不当な水利益の80%を、カイポリスのインフラ整備基金に寄付しろ』って」


「……喜んで。特急便で送りますね」


リリスが、かつてないほど爽やかな笑顔でタブレットを操作する。


「さて。……邪魔者がいなくなったところで、作業再開だ。……バルガスさん! 次は、この草原に『全自動・農散水ドーム』を建てるよ! 三日で完成させるから、気合入れてね!」


「おうよ、親方! あの石像(騎士)どもの隙間に、いい感じの柱をぶち込んでやるぜ!」


僕たちは、泣き喚く利権屋たちを「便利な資材置き場」として活用しながら、荒野を更なる豊穣の地へと変えていった。


カイ・ハイランドの辞書に、「妥協」と「政治」の文字はない。

 あるのは、「納期」と「完璧な施工」だけだ。

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