第17話:巨大ダム建設。――水の精霊王をタービンにする男
駅ナカ商業施設『カイポリス・ステーション・センター』の誕生により、街の消費電力(魔力)は爆発的に増加していた。
『第二の太陽』による給湯システムはあるものの、街全体の照明、自動歩道、そして魔導列車の運行を支えるには、より安定した「基幹電源」が必要だった。
「カイ様、ガミールさんから苦情です。『タワーマンションのWi-Fiがたまに途切れる! 商談に差し障る!』と、涙目で訴えてこられました」
聖女リリスが、不規則に明滅する街灯を見上げながら言った。
「通信インフラの不安定は、都市の死活問題だね。……よし、街の裏を流れる『レテ川』の急峻な地形を利用して、巨大な魔導発電ダムを作ろう」
「ダム……? 川をせき止めるのですか? あそこには気性が荒いことで知られる『水の精霊王』が棲んでいると聞きますが……」
「大丈夫。精霊王にも『再就職先』が必要だろうからね」
***
レテ川の上流、切り立った断崖が続く「龍の喉」と呼ばれるエリア。
僕はドワーフのバルガスたちを引き連れ、現場に到着した。
「親方、こりゃあ骨が折れるぜ。この岩盤、水の魔力で常に湿ってやがる。普通のコンクリートじゃあ、固まる前に流されちまう」
「それなら、固まる速度を物理法則ごと早めればいいんだよ。バルガスさんたちは、底面の基礎工事をお願い」
僕は断崖の両岸に手を触れた。
【固有権能:大規模重力ダム構築】
――ゴォォォォォォ……ッ!!
両岸の岩山が意思を持ったように競り上がり、川の中央でガッチリと組み合わさった。
僕はそこに、ドワーフたちが精錬した「対魔導鋼」を骨組みとして打ち込み、特殊な『急速硬化魔導セメント』を流し込む。
わずか一時間。
高さ二百メートルを超える、白亜の巨大な「壁」が荒野に出現した。
『……何奴だ。我が眠りを妨げる、不届きな人間め!』
その時。
せき止められた水の底から、巨大な水の蛇――水の精霊王アクアリアが姿を現した。
彼女がひとたび尾を振れば、一国を飲み込む洪水が起きると言われている。
「あ、君が精霊王? ちょうどいいところに。実はこのダム、君の『流れ』を借りたくて作ったんだ」
『……黙れ! 誰がこのような忌々しい壁に協力するなどと――』
「協力してくれたら、君の棲家を『全自動クリーン機能付き・高濃度魔力スパ』にリフォームするよ。今の川底、泥だらけで住みにくいでしょ?」
『………………ほう?』
精霊王の動きが止まった。
「このダムの内部にある『螺旋式魔導タービン』の中を、君が楽しく泳ぐだけでいい。その摩擦で発生する魔力を、街の明かりにするんだ。代わりに、君の棲むエリアには常に最高の浄化魔法をかけ続けるし、退屈しないように『魔導シアター』も設置する」
『……その条件、詳しく聞かせてもらおうか』
数分後。
精霊王アクアリアは、キラキラと輝く特製タービンの中を「これ、気持ちいいわね!」と鼻歌混じりに猛スピードで泳ぎ始めた。
ドォォォォォォォ……ッ!!
ダムの最深部から、かつてないほど純粋で強力な魔力が発生し、太い魔導ケーブルを伝って街へと流れ込む。
カイポリス中の街灯が、今まで以上に明るく、安定して輝き始めた。
「よし、接続完了。これでWi-Fiも途切れないし、街全体の電力が完全に自給自足できるようになったよ」
「……カイ様。精霊王を『自家発電機』扱いするなんて、神話の神々が聞いたら泡を吹いて倒れますよ……」
リリスが、アクアリア専用の「休憩室(高級ジャグジー)」を見ながら、乾いた笑いを漏らした。
***
一方その頃、王都。
「団長……報告です。王都の魔力源である『古の魔導炉』が、燃料切れでついに停止しました。……今、王都は完全に停電しています」
「……何だと? 予備の魔石はどうした!」
「すべて、カイポリスへの『移住資金』として商人たちが持ち去ってしまいました……」
暗闇に包まれた王都で、レオンは自分の足元すら見えず、盛大に階段から転げ落ちた。
インフラなき国家は、もはや暗闇を彷徨うだけの亡霊に過ぎなかった。




