第16話:駅ナカは迷宮(ダンジョン)より複雑。――初めてのショッピングモール建設
魔導鉄道『カイポリス・エクスプレス』の開通は、世界に激震を走らせた。
だが、発着点となるカイポリス中央駅のホームに降り立ったミラ王女は、不満げに頬を膨らませていた。
「ねえ、カイ。鉄道は素晴らしいわ。でも、駅を降りてからタワーマンションまで、ただの『綺麗な道』しかないのは寂しすぎない? 商売のチャンスをドブに捨てているようなものよ!」
「寂しいかな? 舗装精度にはこだわったんだけど」
「そういうことじゃないのよ! これだけ人が集まるのなら、ここに『店』が必要なの!」
ミラ王女の熱弁(という名の商談)を受け、僕は顎に手を当てた。
確かに、鉄道の利用者が増えれば、待ち時間や乗り換えの合間に「買い物」や「食事」ができるスペースがあった方が利便性は高い。
「……分かった。それじゃあ、駅舎そのものを拡張して、巨大な『商業施設』に作り替えよう」
「……えっ、今から? もう駅は完成しているのに?」
「大丈夫。リフォームは僕の得意分野(十八番)だから」
僕は現場監督のヘルメットを叩き、駅のコンコースの中央に立った。
「ドワーフ諸君! 基礎の補強は僕がやる。君たちは内装用の『光る大理石』と『防音ガラス』のカットを頼む!」
「おうよ、親方! 腕が鳴るぜ!」
僕は地面に手を触れ、駅舎全体の構造図を脳内に展開した。
【固有権能:空間等価拡張】
――ズ、ズズズ……。
駅の壁面が生き物のようにうごめき、外側を広げることなく、内部の空間だけが幾何学的に増殖していく。
吹き抜けの巨大なホールが出現し、天井には空の天候をリアルタイムで反映する『魔導スカイドーム』が形成された。
「なっ……空間を歪めて広げたの!? これじゃあ、外から見るより中の方が広すぎるわ!」
「移動が大変だから、床は全部『自動歩道』にしておくよ。……さて、次はテナント(店舗)だ」
僕はガミール商会から提供された「世界中の名店リスト」を読み込み、店舗区画を次々と構築していく。
一階は、焼きたてのパンの香りが漂うベーカリーと、魔導冷却器(冷蔵庫)を完備した生鮮市場。
二階は、エルフの里直送の薬草を使ったコスメショップや、ドワーフ手製の頑丈な雑貨店。
三階は、世界中の料理が楽しめるフードコート。
「……ついでに、待ち時間で退屈しないように『魔導映画館』と、子供たちが遊べる『重力制御アスレチック』も作っておこう」
仕上げに、以前捕獲した「火炎トカゲ」の魔力を弱めて抽出し、全館空調の熱源として組み込んだ。
作業開始からわずか二時間。
ただの「乗り場」だった駅は、一日に数万人が行き交っても余裕がある、大陸最大のショッピングモール『カイポリス・ステーション・センター』へと変貌を遂げた。
「……カイ。あなた、自分が何をしたか分かってる?」
ミラ王女が、自動ドア(魔力感知式)を何度も出入りしながら、呆然と呟いた。
「これ、一国の経済をこの建物一つで支配できるレベルよ。王都の商業区全体を合わせても、このモールの『一階』の売上に勝てないわ……」
「喜んでくれてよかった。……あ、ミラ王女。そこの店舗、ゼノスの特産品を売るスペースとして空けておいたから。出店料は格安でいいよ」
「……っ、抱きついてもいいかしら!? いえ、今すぐ契約書を持ってこさせるわ!」
ミラ王女が狂喜乱舞して走り去る中、僕は駅の隅っこで、自分用の「立ち食いそば屋」を密かに建設していた。
現場仕事の後のそばは、最高だからね。
***
その頃。
王都から亡命してきた元・宮廷料理人が、カイポリスの駅ナカに一歩足を踏み入れ、あまりの設備の充実ぶりに包丁を落として泣いていた。
「……炭を熾す必要がない……。蛇口からお湯が出る……。ここ、ここは……料理人の天国か……っ!」
インフラが整うたびに、王都の「才能」は雪崩のようにカイポリスへと流れ込んでいく。
そして、その様子を「監視魔法」で見ていたレオンは、自分の昼飯であるパサパサの乾パンを、涙で湿らせていた。




