ep92.最終目的
地下最深部。
能力結晶が浮かぶ空間。
強欲の少年は、透明な箱を抱えたまま、りりを見上げている。
「いいよー」
りりが、楽しそうに言う。
「もう少し世界を壊したらあげるからさ」
「手伝ってくれない?」
沈黙。
ほんの一瞬。
朔が目を細める。
憤怒が鼻を鳴らす。
パンドラの箱が、静かに鳴る。
そして。
少年は、にこっと笑った。
無邪気に。
本当に、ただ遊びに誘われた子供のように。
「うん!」
軽い返事。
それだけで。
壁一面の能力結晶が、さらに高く浮き上がる。
重力が歪む。
「なに壊すの?」
純粋な目。
邪気がない。
だからこそ、怖い。
りりは、しゃがんで目線を合わせる。
「世界」
即答。
少年は、少し考える素振りをする。
「全部?」
「全部」
にっこり。
少年は、頷く。
「いいよ」
「ぼくも、欲しいから」
「もっと」
その瞬間。
少年の足元から、黒が広がる。
強欲の性質が空間を侵食する。
奪う。
集める。
増やす。
隣に立つ朔の飢餓が、反応する。
似ている。
だが違う。
強欲は“足りないから欲しい”。
暴食は“満たされないから喰う”。
方向が違う。
りりが立ち上がる。
満足そうに。
「さて」
くるりと振り向く。
「駒は揃った」
朔。
憤怒。
パンドラ。
強欲。
そして、暴食。
少年が、地下の出口へ歩き出す。
能力結晶を引き連れて。
まるで玩具を抱えたまま外へ出る子供。
振り返る。
その視線が、どこか遠くを見る。
「どこだって戦ってあげるよ」
小さく笑う。
「青原」
空気が、わずかに震える。
りりの口元が、ゆがむ。
朔は、何も言わない。
ただ、世界が壊れる音が、
少しだけ近づいた。




