ep89.お迎え
対黒特別対応局・本部地下。
警報が、鳴り止まない。
赤いランプが明滅する。
「異常値、再上昇!」
「黒反応、広域拡散!」
「指名手配対象の残留波形を検出!」
オペレーターの声が飛び交う。
だが。
誰も“何が起きたか”を理解していない。
パンドラボックスの破壊。
その瞬間に発生した膨大なエネルギー波。
本来なら観測不能なはずの裏世界の裂け目が、地上にまで干渉している。
「原因は?」
「不明!」
「人器関連か?」
「データ不足!」
モニターに走る波形。
過去のログが、勝手に呼び出される。
――青原。
――神木春。
――星崎天音。
――未確認王級個体。
全てが同時に点滅する。
「過去の指名手配反応が再活性化しています!」
「は? 何年前のだ」
「全部です!」
室内が凍る。
同時刻。
地上。
本部の屋上に設置された対黒ライトが、自動で起動する。
太陽光に似た光が、夜空を裂く。
しかし。
空は、歪んでいた。
誰も気づいていない。
だが。
空間の端が、わずかに裂けている。
時間を置いて。
静かに。
“それ”は現れた。
最初に検知されたのは、黒の密度。
無数。
小型の黒が、建物の周囲に滲み出る。
「外周に黒反応!」
「数が多すぎる!」
「群れか?!」
違う。
群れではない。
“呼ばれている”。
空間が、裂ける。
黒い扉が一つ、開く。
音はない。
ただ、そこにある。
警備兵が銃を構える。
「止まれ!」
返答はない。
扉から、一歩。
少女が出てくる。
黒髪。
笑っている。
「こんばんは」
片桐りり。
背後。
さらに扉が開く。
炎をまとった影。
憤怒。
次。
人型に戻った暴食の王。
朔。
その背後に、無数の箱を揺らすパンドラ。
空間が、明らかに歪む。
対黒局内部。
「王級反応!」
「同時三体!」
「人器確認!」
「侵入です!」
赤ランプが、完全に点灯する。
局長席のモニターに映る、りりの顔。
彼女は、カメラの位置を正確に見抜いたように、視線を向ける。
「お邪魔します」
微笑む。
「手、借りにきたよ」
背後で、朔が低く呟く。
「……匂うな」
憤怒が炎を揺らす。
「焼くか?」
パンドラの箱が、かちりと鳴る。
対黒局の人間は、まだ理解していない。
これは“襲撃”ではない。
“選別”だ。
次の瞬間。
外周の黒が一斉に動く。
対黒ライトが、照射される。
だが。
朔は、光の中で笑った。
「腹は、減っている」
局内の誰かが、震えた。
戦闘が始まる。




