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パレット  作者: 青原朔
119/124

ep88.崩壊への

裏世界の歪みが、ゆっくりと閉じる。


瓦礫だけが残る。


その中心で。


黒が、収束した。


巨大だった都市の塊が、縮む。


形を整える。


骨のような輪郭。


人の腕。


人の顔。


暴食の王は、人型に戻っていた。


「……おかえり、朔」


リリが笑う。


黒髪が揺れる。


「半分、取られちゃったね」


暴食――朔は、ゆっくりと自分の胸を見る。


空洞。


確かに削れている。


だが。


以前のような暴走はない。


飢餓はある。


だが、静かだ。


「……随分、静かだな」


低い声。


リリが頷く。


「うん」


「削られたおかげで、均衡が取れたのかもね」


パンドラが、無数の箱を揺らす。


髪の先で、小さな箱がカチカチと鳴る。


「安定個体」


「会話可能」


無機質な声。


憤怒の王が、鼻で笑う。


「削られて安定とは、皮肉なものだな」


赤黒い炎が、瞳の奥で揺れる。


リリが振り返る。


「さて」


「私の目的は、このまま対黒局へ行くことだけど」


指を鳴らす。


「どうする?」


視線が巡る。


朔。


憤怒。


パンドラ。


朔は、肩を鳴らす。


「食えるなら、どこでも構わん」


静かな飢餓。


だが以前のような無差別ではない。


対象を選ぶ目。


憤怒が唸る。


「なぜ貴様が仕切る」


炎が立ち上る。


「力も足りぬくせに」


リリは、にやっと笑う。


「だってさ」


「当てなさそうじゃん?」


軽い。


挑発。


「楽しまないと」


憤怒の炎が一瞬、膨らむ。


だが。


否定しない。


パンドラが、ゆっくりと首を傾げる。


「こんな何もないところにいても、ね」


その背後で。


空間が、裂ける。


無数の黒い扉。


パンドラボックスが、次々と開く。


カチ。


カチ。


カチ。


好きな場所に繋がる穴。


都市。


廃墟。


対黒局の内部。


地下。


屋上。


選択肢は、無数。


リリが手を広げる。


「好きなところに入りな」


朔が、一つの扉を覗く。


「……匂うな」


憤怒が、別の扉に炎を向ける。


「ここだ」


パンドラが、静かに言う。


「座標固定」


リリが笑う。


「じゃ、いこっか」


次の瞬間。


無数の箱が一斉に閉じる。


音もなく。


そこにはもう、誰もいない。


残ったのは。


裏世界の、静かな歪みだけだった。

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