表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 青原朔
117/124

ep86.今はまだ人間だ

静寂が、少しずつ緩む。


春が立ち上がる。


葵の額の血は、もう止まっている。


零が少し距離を取る。


その時。


背後から、腕が回った。


「はーる♡」


甘い声。


温度が一気に上がる。


「……あ?」


魅魅が、後ろから春にぴったりとくっついている。


「いやぁ〜怖かったぁ」


わざとらしく震える声。


「戻れないのかと思ったよぉ?」


そして。


そのまま、春の頭をくしゃっと撫でる。


「よく戻ったね〜えらいえらい♡」


春の顔が一瞬で引きつる。


「おい」


「調子戻るの早ぇな」


魅魅はにやにやする。


「だって死んでないし?」


「死ななきゃセーフだよ」


ぎゅっと、さらにくっつく。


「それにぃ」


「暴食半分抱えた王様とか、最高にそそるんだけど?」


春のこめかみに青筋。


「離れろ」


「やだ」


その瞬間。


空気がピキッと凍る。


「……くっつきすぎ」


零の声が、低い。


氷が足元から広がる。


葵も立ち上がる。


少しふらつきながら。


「そうだよ」


「さっき人吹っ飛ばしといて、何いちゃついてんの?」


天音も、静かに口を開く。


「距離感おかしくない?」


春が、ぎくりとする。


魅魅は、きょとんとした顔。


「え?」


「嫉妬?」


「可愛い」


零の額に青筋。


「可愛くない」


氷の粒が空気に舞う。


葵が春の腕を引っ張る。


「ちょっと離れて」


天音がもう片方に立つ。


「状況分かってる?」


魅魅が、じっと春を見る。


「……なにこれ」


小さく笑う。


「取り合い?」


零が即答。


「違う」


葵が即答。


「違う」


天音も。


「違う」


三方向から睨まれる春。


「俺に言うな!」


魅魅が、ふっと目を細める。


「ふーん」


「じゃあ私、もっとくっつこ」


がっつり抱きつく。


零の氷が一段冷える。


「やめろ」


葵が一歩前に出る。


「ほんとなんなのもう!」


天音も珍しく声を荒げる。


「今それやる?」


春が、頭を抱える。


「……マジで勘弁してくれ」


その様子を見て。


魅魅が、くすっと笑う。


少しだけ、ほんの少しだけ。


安堵の混じった笑み。


「うん」


「ちゃんと“春”だ」


それだけ、ぽつりと言う。


零が一瞬、目を伏せる。


葵も、少しだけ表情を緩める。


天音も、静かに息を吐く。


さっきまで。


春は、怪物になりかけていた。


今は。


ちゃんと面倒な男子高校生だ。


裏世界の空は、まだ歪んでいる。


暴食は生きている。


飢餓も消えていない。


でも。


今だけは。


少しだけ。


人間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ