表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 青原朔
116/124

ep85.君の弱さは

春は、ゆっくり葵の前に膝をついた。


瓦礫に散った血が、まだ乾いていない。


「……動くな」


震える声で言う。


葵は、少しだけ笑った。


「命令?」


いつもの調子に戻そうとしている。


でも、声が弱い。


春は、目を逸らす。


「違う」


手が、伸びかけて止まる。


触れていいのか分からない。


「……悪い」


短い。


でも、それしか出ない。


葵は、春を見上げる。


怒っていない。


責めてもいない。


それが余計にきつい。


「怖かった?」


葵が、先に聞いた。


春は、黙る。


嘘はつけない。


「……ああ」


「自分が、自分じゃなくなるの」


「怖かった」


葵は、ゆっくり息を吐く。


「私もだよ」


静かな声。


「ハルが、いなくなるかもって」


間。


風が、瓦礫を揺らす。


葵は、痛みに顔をしかめながらも続ける。


「でもさ」


「戻ってきたじゃん」


春の喉が詰まる。


「戻ってねぇよ」


低く。


「半分、あいつが入ってる」


葵は、首を横に振る。


「違う」


「半分入ってるのに、止まった」


「それがハルでしょ」


春は、視線を落とす。


血。


自分のせいだ。


葵は、小さく笑う。


「ねえ」


「さっきさ」


「私、逃げなかったんだよ」


春が顔を上げる。


「分かってた」


「殴られるかもって」


「でも、逃げたら終わる気がした」


春の拳が震える。


「……何で」


葵は、少しだけ困った顔をする。


「好きだから」


直球。


でも。


それは恋愛だけじゃない。


「ハルが、ハルでいようとするところ」


「それ、信じたいから」


春は、何も言えない。


葵は、少し真剣な目になる。


「でもね」


「次、私を本気で喰おうとしたら」


一瞬、間。


「殴るよ」


春が、思わず笑う。


「弱ぇだろ」


葵も、笑う。


「うん」


「でも、殴る」


静かな約束。


春は、やっと葵の額に触れる。


氷の残滓がまだ冷たい。


「……次は守る」


葵は、首を振る。


「守らなくていい」


「一緒に立てばいい」


その言葉が、胸に落ちる。


遠くで、零が静かに見ている。


魅魅は、少しだけ視線を逸らした。


青原は、煙草の煙を吐く。


裏世界は、まだ不安定だ。


暴食は生きている。


飢餓は残っている。


でも今は。


春の呼吸が、ようやく整った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ