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パレット  作者: 青原朔
115/123

ep84.折り返し

静寂。


瓦礫の匂い。


血の匂い。


誰も、すぐには動けなかった。


春は、まだ葵を見ている。


自分の手を見ている。


震えが止まらない。


その時。


コツ、と。


靴音。


瓦礫を踏む音。


振り向かなくても分かる。


青原だった。


煙草をくわえている。


火はついていない。


ただ、持っているだけ。


「……やったね」


軽い声。


責めていない。


慰めてもいない。


春は睨む。


「何が」


青原は肩をすくめる。


「暴食を半分削った」


「上出来だよ」


春の拳が強く握られる。


「葵、ぶっ飛ばしたけどな」


青原は視線をずらさない。


「うん」


肯定。


否定しない。


春の呼吸が荒くなる。


「俺、今……」


「喰おうとした」


青原は静かに言う。


「当然だ」


その一言で、空気が止まる。


零が睨む。


魅魅が目を細める。


青原は続ける。


「暴食を半分取り込んだんだ」


「飢餓が出ないわけないだろ」


春が歯を食いしばる。


「じゃあどうすりゃいい」


青原は少しだけ、笑う。


「選ぶことだ」


「喰うか、耐えるか」


「毎回な」


春が苛立つ。


「そんなの分かってる!」


青原は煙草を回す。


「分かってるなら大丈夫」


「壊れない人間はね、そもそも壊れかけない」


静寂。


春は目を逸らす。


「俺は壊れかけた」


青原は頷く。


「うん」


「でも戻ってきた」


それだけ。


余計なことは言わない。


青原は、少しだけ葵を見る。


「ちゃんと謝りなさい」


軽い。


いつもの口調。


でも。


それが、今は救いだった。


春は、ゆっくり葵の方へ歩く。


足取りが重い。


青原は最後に、ぽつりと呟く。


「半分、抱えたね」


「ここからが本番だよ」


煙草に、ようやく火がつく。


赤い火が、小さく灯る。


その光が、裏世界でやけに目立った。

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