表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 青原朔
112/122

ep81.タイムリミット

影が、春の足元から立ち上がる。


黒が、重なる。


零の冷たい気配が、背骨に沿って走る。


魅魅の甘い熱が、胸を焦がす。


夢魔の鈍い重さが、四肢に沈む。


統の冷酷な思考が、頭蓋を満たす。


同時に。


飢餓。


暴食の匂いが、もう喉の奥にある。


まだ触れていないのに。


腹が、鳴る。


「……くっ」


視界が滲む。


五つの王の気配が、一点に収束する。


春の瞳が、黒く染まる。


いや。


黒と白が混じり、濁る。


零が叫ぶ。


「ハル、深く行きすぎないで!」


魅魅が笑う。


「行くなら、最後までね?」


夢魔がぼやく。


「壊れたら面倒だよ」


統が囁く。


――制御しろ。喰われるな。喰らえ。


春は、前に出る。


暴食と、真正面。


圧。


空気が裂ける。


膝が軋む。


それでも。


一歩。


もう一歩。


「……5分だ」


春の声が、低く落ちる。


「俺の中で暴れろ」


黒が、爆ぜる。


春の背後に、巨大な影が立ち上がる。


王の集合体。


零の氷が腕を包む。


魅魅の歪みが空間を撓ませる。


夢魔の脱力が重力を鈍らせる。


統の刃のような意志が前方を切り裂く。


そして。


春の中の“空白”が開く。


喰らうための空洞。


暴食が、口を開く。


それは都市だった。


無数の声。


無数の絶望。


無数の飢餓。


東京そのものが、咆哮する。


春は、踏み込む。


拳を振るう。


王の力が一点に凝縮する。


衝突。


裏世界が爆ぜる。


瓦礫が粉になる。


空が裂ける。


それでも。


暴食は、笑っている。


削れていない。


ほんの、表面。


「はは……」


春の口から、別の声が混じる。


「足りねぇ」


腹が、焼ける。


もっと。


もっと欲しい。


零が震える。


「ハル、違う、それは――」


春の瞳が、暴食だけを見据える。


「半分、もらう」


影が、伸びる。


暴食の輪郭に絡みつく。


都市の悲鳴が、喉に流れ込む。


飢餓が、春の中へ侵入する。


一瞬。


時間が止まったように静まる。


次の瞬間。


裏世界が、絶叫した。


暴食の体が、裂ける。


半分が、剥がれる。


それは黒い奔流となって春へ流れ込む。


零が叫ぶ。


「止めろ!!」


魅魅が歯を食いしばる。


夢魔が顔をしかめる。


統が笑う。


――受け止めろ。


春の身体が、痙攣する。


血が滲む。


視界が赤く染まる。


飢餓。


圧倒的飢餓。


足りない。


まだ足りない。


都市一つじゃ、足りない。


膝が崩れそうになる。


それでも。


暴食は、まだ立っている。


削れた。


確かに削れた。


だが。


残り半分が、こちらを見ている。


怒りでも、憎しみでもない。


ただ。


「欲しい」


と。


春の口元が、歪む。


「……うまそうだな」


その声は。


もう、少しだけ。


春じゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ