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パレット  作者: 青原朔
111/122

ep80.この世界とは

鏡の世界は、まだ壊れていなかった。


玉座の上に座る春。


その下で跪く零。


隣で微笑む魅魅。


少し後ろで静かに立つ葵。


そして、春のすぐ傍らで優しく笑う天音。


争いはない。

黒もない。

飢餓も、嫉妬も、怒りもない。


完璧な静寂。


咲はその光景を見上げ、くすりと笑った。


「何がいけない?」


春を見つめる。


「これ以上、手に欲しいものがあるのか?」


玉座の階段をゆっくりと上がる。


「誰も死なない」

「誰も離れない」

「誰も裏切らない」


一歩、止まる。


「人間なら、この未来は望むだろうな」


そして、何気なく続けた。


「読者も、きっと」


春の眉がぴくりと動く。


「……読者?」


零が顔を上げる。


魅魅が首を傾げる。


「何の話?」


春が睨む。


「咲、お前何言ってる?」


咲は一瞬だけ目を細め、

それから軽く笑った。


「ああ、気にしなくていい」


「癖みたいなものだよ」


春は苛立ちを隠さない。


「分かるように喋れ」


咲は玉座を見上げる。


「完璧な終わり方だ」


「君は王になった」


「全てを守った」


「世界は静かだ」


「外から見れば、これ以上はない」


春が立ち上がる。


「外?」


咲は答えない。


ただ、楽しそうに春を見る。


「それでも、いらないのかい?」


春は玉座を見下ろす。


零を見る。


魅魅を見る。


天音を見る。


全員が微笑んでいる。


逆らう理由も、怒る理由も、ぶつかる理由もない。


「……重いな」


春が呟く。


咲が目を細める。


「重い?」


「全部、俺のものってことだろ」


拳を握る。


「誰も俺に怒らねぇ」


「誰も俺を否定しねぇ」


「誰も俺を選んでねぇ」


春は咲を真っ直ぐに見る。


「閉じ込めただけだ」


沈黙。


咲の笑みが、少しだけ深まる。


「贅沢だな」


「失わない世界を前にして」


春は首を振る。


「失わないんじゃねぇ」


「動かねぇだけだ」


その瞬間。


玉座にひびが入る。


零の輪郭が揺れる。


魅魅の笑みが揺らぐ。


天音の瞳にわずかに意志が戻る。


咲は壊れ始めた世界の中で、楽しそうに言う。


「やっぱり君は、面白い」


「完璧より、未完成を選ぶ」


春が吐き捨てる。


「ネタみたいなこと言ってんな」


咲は肩をすくめる。


「さあね」


鏡が砕ける。


光が散る。


世界が裏返る。


現実へ引き戻される直前、


咲の声だけが残る。


「最高傑作だよ、春」


そして、闇が落ちた。


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