ep79.if
《共犯者:If ― 王の春》
「仮に君が王になった姿を見せよう」
咲が、軽く指を鳴らす。
鏡面がひび割れ、
世界が裏返る。
視界が白に沈む。
次の瞬間。
春は“玉座”に座っていた。
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高い天井。
黒と白が混ざり合った城。
静かだ。
あまりにも静か。
「……なんだ、これ」
立ち上がろうとする。
だが身体は重くない。
むしろ、軽い。
力が満ちている。
零が、階段の下に立っている。
跪いている。
「ご命令を」
声は冷静だ。
嫉妬はもう揺れていない。
完全に春のもの。
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魅魅が、玉座のすぐ隣にいる。
微笑んでいる。
「全部あなたのものだよ?」
色気も、毒もない。
ただ、従順。
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葵は後方に立っている。
視線は春だけを追う。
不安も執着もない。
静かな信頼。
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天音もいる。
すぐ横。
微笑んでいる。
あの日のまま。
「これでいいんだよ」
そう言う。
でも。
その瞳に意志はない。
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春は、理解する。
全員を取り込んだ。
黒も。
王も。
感情も。
対黒局も崩壊し、
強欲も消え、
暴食も静まり、
世界は平穏。
黒は存在しない。
能力もない。
争いもない。
理想。
完全な理想。
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だが。
誰も“選んで”ここにいない。
全員が“春の所有物”。
自由意志はある。
だが。
逆らう理由が存在しない。
春が全てだから。
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「悪くないだろ?」
咲の声が後ろから響く。
振り返る。
咲は観客席にいる。
拍手している。
「君は成功した」
春は玉座から降りる。
階段を降りる。
零の前に立つ。
「零」
「はい」
間。
「俺をどう思ってる」
「あなたが世界です」
即答。
迷いなし。
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春の胸が、軋む。
魅魅を見る。
「俺のこと、好きか?」
「もちろん」
即答。
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天音を見る。
「幸せか?」
「うん」
完璧な笑顔。
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何も壊れていない。
誰も苦しんでいない。
でも。
誰も“ぶつかってこない”。
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春は、ゆっくり息を吐く。
「……これが王か」
玉座に戻る。
座る。
視界が広がる。
世界の全てが掌の上。
圧倒的支配。
孤独。
誰も本音を言わない。
言えない。
必要ない。
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咲が笑う。
「悪くないよね?」
「誰も死なない」
「誰も離れない」
「君が恐れてたもの、全部消えてる」
静寂。
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春は、目を閉じる。
想像する。
もしこの世界を選べば。
零は泣かない。
魅魅は離れない。
葵は壊れない。
天音は消えない。
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だが。
それは全部。
“俺の中”で完結している。
誰も、俺を選んでいない。
俺が選んだだけ。
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春は目を開ける。
咲を見る。
「……退屈だな」
その瞬間。
世界にひびが入る。
零の瞳が揺れる。
魅魅の笑みが崩れる。
天音の目に色が戻る。
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咲の拍手が止まる。
「へぇ」
春は言う。
「こんな世界いらねぇ」
崩壊。
鏡が砕ける。
⸻
現実へ戻る。




