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パレット  作者: 青原朔
109/120

ep78.壊れる覚悟

暴食は、ただ立っている。


三つのブラックアウトを砕き、


何事もなかったように。


裏世界の空が歪む。


瓦礫が浮き、消える。


圧だけで、膝が笑う。


「あーあ」


鏡の向こうで、咲がにやっと笑う。


視線が、春に向く。


「ここまで来たら、止めるしかねーだろ…」


春が吐き出す。


咲は肩をすくめる。


「どうやって?」


「僕は力を貸さないよ?」


「わかってる!」


怒鳴る。


その声が震えているのを、自分でも分かっている。


零が振り向く。


「ハル!もう悩んでる時間ないかも!」


暴食が、腕を振り上げる。


空間が欠ける。


久我が吹き飛ぶ。


美波が転がる。


天音が体勢を立て直す。


「くそ…」


春の手が、震える。


「俺だって…こえーんだよ…」


喉が渇く。


心臓がうるさい。


自分が、自分でなくなる感覚。


暴食を取り込む?


王を束ねる?


正気でいられる保証はない。


誰かを傷つけるかもしれない。


戻れないかもしれない。


怖くないはずがない。


でも。


暴食が、また一歩踏み出す。


裏世界が、崩れる。


「……やるしかない」


小さく。


でも、はっきり。


春が前に出る。


零と目が合う。


魅魅が息を呑む。


夢魔がめんどくさそうに眉をひそめる。


統の気配が、奥で笑う。


春が言う。


「零、魅魅、夢魔、統…力を貸してくれ」


静寂。


「5分でいい」


零の瞳が見開かれる。


「5分?!」


魅魅が声を上げる。


「そんな器用なことできるの?」


春は、首を振る。


「やってみるしかない」


暴食が、口を開く。


吸引が始まる。


地面が引き寄せられる。


春は、叫ぶ。


「5分経ったら、全員離脱してくれ!」


「それで無理なら――」


一瞬、間が空く。


「一緒に死んでくれ」


零の呼吸が止まる。


魅魅の表情が消える。


夢魔が、ため息をつく。


「ほんと、面倒なの選ぶよね」


でも。


零が、ゆっくり頷く。


「5分だけ」


魅魅が、にやっと笑う。


「あとで責任とってよ?」


夢魔が肩をすくめる。


「……めんどくさ」


統の声が、内側で響く。


――壊れる覚悟はできているか?


春は目を閉じる。


そして。


影が、広がる。


王の気配が、重なる。


裏世界が、再び歪む。


暴食が、初めて。


ほんの僅かに。


視線を細めた。

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