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ヒュイッ───と外で口笛が奏でられる。
対し、ワンと応えを返す愛犬の鳴き声。
粉塵が舞うこの部屋は、不思議なことに風の流れがあった。宙で踊る白い粉の粒子は、一定の流れで外に排出されつつある。
なぜか。
ツードは白い粉の流れる先を見た。
また愕然とする。
少々開いた窓に白い粉は排出され、そして窓枠に垂れ下がる長い紐はベッドの下に繋がっていた。
そして、長い紐が揺れる。
徐々に張り始め、ピンと直線状となった。
「ひっ、やめ、て───」
それがツードの最後の言葉となった。
まさかバカ犬にまで裏切られるとは思わなかった。
ピンと張った紐が外れる。「じゃあな」とでも言うようにツードの寝室からスルリと脱した。
その直後、ツードは毒と散弾銃で動きを封じられた上、過剰な爆薬と粉塵により、遺体が残らぬほど消し飛んだ。
まさか。妻と子供と弟と庭師に裏切られて殺されるとは夢にも思わなかった。
弟と庭師になら、まだ心当たりはある。妻の動機はわかった。子供たちはわからないが。
だが、部屋に戻れば死ぬとわかっているのなら話は別だ。
戻らなければいい。ツードを殺すギミックが仕掛けられているあの部屋に。
そして不審な行動を起こし続けるのだ。さすれば犯人たちは痺れを切らせてボロを出す。
幸いにして執事のシックサはこちらの味方なようで、奇行に走るツードに飽きもせず付き従っている。行く先に何者かの気配があれば止まるよう指示し、何度もやり過ごした。
この別荘には少なくとも敵がいる。それも複数。殺したいと望むほど強い恨みを抱く者たちが。
なんとかしなければ。
残り時間はどれほどかはわかっている。天井裏に仕掛けたショットガンは時限式。そういえば最近、傘下の企業がそのような機械を作ったと報告していた。きっとテンガはそれに目を付けて独自の改造を施した。
庭のバカ犬もそうだ。口笛は合図。庭師のセブンヌが吹いた。灯りを付ければ寝室に滞在していると気付くだろう。
だから戻らない。そうすれば妻に毒を盛られない。子供の謎に卓越したトラップに引っかかることもない。
やれる。絶対に生き残れる。
これは運命だ。神からの啓示でもある。
記憶を持ったままタイムリープした。一時間前に。これは神が言っているのだ。なんとしても生き残れと。
だというのに………
「ツードさん。寝室に戻りましょう? ね? ね?」
恩を仇で返そうとするワンスには辟易する。自覚があるかどうかはわからないが、悪質極まりない。
ブチ殺したろかコイツ。と表情に出さず、心のなかで強く呪った。
こりゃ酷ぇや。
以上がツードの回想です。ワンスがそうであったように、ツードも前回の記憶を持ったまま死に戻りしました。
さて、すべてのトリックを明かしたところで………やりましょう。殺したい側と殺させない側、歪なやり取りです。




