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6-1

「なにを言っているんだか。ワンスよ。夜はこれからだぞ?」


 ワンスの勢いに負けじと応戦を開始するツード。


「そうだ。ボクシングは好きか? 実は私は好きなんだ。ここで一戦興じるというのはどうだ? な? な?」


 日々の激務で足腰の筋肉は硬直しているが、死ぬよりかはマシだと決意し、軽くステップを踏みながら左右の拳を構え、左でジャブを打つ。遅い動作ではあったが。


「いやいや、無理はいけません。腰に悪いですよ。怪我をしますので、もう寝室にお戻りください」


 ワンスは満面の笑みを浮かべてツードの腕を掴んで止める。


「いやいや、まだ寝ない。私は暴れたい気分なのだ!」


「いやいや、ダメです。もう休んでください」


「いやいや」


「いやいや」


「いやいやいや」


「いやいやいや」


 まるでイヤイヤ期の応酬だ。シックサも呆れている。


 そんなやり取りを続けていると、ツードに救いの手が差し伸べられる。



「あ、見つけましたよ。かなりお飲みになっていましたし。酔い覚ましにコーヒーを淹れてみました。いつも飲んだあとはコーヒーを召し上がられていましたし。いかがですか?」



「お、おおっ! 良いタイミングで来てくれたなナイア! 是非ともいただこう!」



 酔い覚ましと聞いて、ワンスが焦る。


 だがツードは弾丸のごとくナイアに接近し、カップを奪うように掴むと、余裕を失っているからか香りを堪能する時間も惜しんで、思い切り口のなかに流し込む。


 そして、



「ゴッファアッ!?」



 思い切りコーヒーを吐き出した。


 半分ほど流し込んだのだろう。漆黒の液体が大量に廊下にぶちまけられる。霧状になったコーヒーもあって、独特なる芳醇にして香ばしい香りのなかに嗅ぎ慣れない異臭を、ワンスは知覚した。


「………これは………酒か?」






「悪いなぁ兄貴ぃ。こうでもしないとあんたは、おねんねしないだろうからなぁ」


 ツードがコーヒーを吹き出す瞬間を愉快げに物陰から見ていたテンガは、凶悪な笑みを浮かべる。



「そのコーヒーは、特別に取り寄せておいた酒で割っておいたぜぇ。アルコール度数九十パーセント以上だったっけかなぁ。こんなの、俺でもぶっ倒れるぜ」



 ナイアがキッチンでコーヒーを淹れるのは知っている。キッチンに忍び込んだテンガは、うまくコーヒーに酒を混ぜることで、強制的に兄を昏睡させようと強硬手段に出たのだった。


アルコール度数九十パーセント以上………スピリタスです。私は飲んだことがありませんが、きっと大変なことになるのでしょうね。

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