Chapter02-2
東京での初日は、突発的な救助活動を除けばこれといったイベントもなく終わったと言える。あの後は宿泊する部屋や他の施設の案内、明日以降のスケジュールのすり合わせといった内容だけが続き、夕食後は解散して各自割り当てられた部屋へ戻ることになった。
ちなみに、部屋割りは久道夫妻とルナリア・ノインがそれぞれ二人部屋。俺は一人で個室となっている。男女別で分けると久道さんと同室になって少し気まずくなりそうだし、まさか女子と同室するわけにもいかない。
別に寂しくなんかないさ。この世界に来て一週間くらいは一人暮らしだったし。割とすぐシアが来たけど……瑞葉さんちで元気にしてるかな。寝る前に来たメッセージの返事を見る限り大丈夫そうだったが……。
しばらく会えない妹のことを考えながら悶々としていたら、いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。気づいたらもう朝だ。
いつも通りスマホのアラームによって、緩慢に朝の訪れを自覚する。意識も朧げにゆっくり身を起こすと、そこは都市の宿舎ではなく、俺が東京に滞在するにあたって与えられた個室だった。
「……一応、里帰りってことになるのか」
表向きのプロフィール上だと、俺は東京出身となっている。事実生まれも育ちも日本だし、真っ赤な嘘ということもない。
でも、ここは俺が知る故郷とはあまりにかけ離れていた。部屋の内装も普段暮らしてる宿舎と大差ないし、今まで見てきた中で一番日本っぽかったのがベイカー邸の庭というのは少々腑に落ちない。
要するに、帰ってきたという感覚は微塵もなかった。ここは既に……いや、最初から俺の帰ってくる場所ではなかったということだ。
だから、俺が今抱いている感情は筋違いでしかない。
「しっかりしねえと、また余計な心配させちまうぞ……」
そう自分に言い聞かせつつ、今日の目覚ましとしての仕事を終えたスマホの電源を切った。こうしないと二年間でへたったバッテリーはすぐ空になってしまう。
実はフューリーに専用の充電器を作ってもらっていたのだが、持ってくるのをすっかり忘れていた。荷物をまとめる時には最低限必要なものを優先的に用意していたので、必要性の低かった充電器の存在に気付いたのは昨日の夜だ。
まあ寝ている間に電源をつけておくだけなら、三日くらいはもつはず。もし滞在が長引いたら、諦めてBCのアラームに頼ろう。
それから一〇分ほどかけて、寝癖を直したり着替えを済ませたりした。男はこういう準備に時間がかからないから楽だな。
部屋を出た俺は、そのまま昨日夕食を食べた食堂へと向かう。理由がない限り朝食と夕食の時は全員で集まることになっていて、何だか修学旅行みたいだ。今から行くと集合時間には少し早いが、早い分には問題ないだろう。
道順はそう複雑ではなかったので、特に迷ったりすることなく食堂へとたどり着いた。一般向けというよりは、管理局のものと同じく東京の研究者や技術職員が使う場所のようで、ちらほら見える利用者はみんな俺より年上だった。そして都市組では俺が一番乗りだったらしい。
カウンターで割烹着を着たおばちゃんから食事の載ったトレーを受け取り、適当な席でボーっと待ちぼうけていると、やがて見知った顔がこちらへと近づいてきた。
「おはよう晴近。早かったのね」
「遅れるよりはいいこと。おはよう」
「あぁ、おはよう二人とも」
ルナリアとノインは軽い会釈と共に、俺の両隣の席へとつく。まあ同部屋なんだから一緒に来るのは当然か。どちらも眠たげな様子はなく、慣れない土地で寝付けなかったなんてことはなかったようだ。
「部屋とか施設を見てる感じだと、都市にいるのとあまり変わらないわね」
「観光に来ているわけではないし問題ない」
「あなたは仕事があるからそうでしょうけど
「新鮮味はあんまないかもなぁ。外に出ればその限りじゃないが……」
ちょっと不謹慎かもしれないが、荒廃した都市の中を歩いていた時は少しだけ気分が高揚した。何というか、遺跡や廃墟の探索に情熱を注ぐ人々の気持ちがわかった気がする。
こんなことを考えてしまう辺り、やっぱ他人事なんだなぁ。
「やぁ、気持ちのいい朝だね」
「既に揃っていたか」
自らの思考に人知れず軽く凹んでいるところへ、今度はフューリーと久道さんがやってきた。この二人は今回が初の東京ではないみたいだし、勝手知ったる感じだな。
全員が集合したところで、朝食を食べ始める。献立は焼き魚にだし巻き卵など、和食がメイン。管理局の食堂でも和食は普通に出たし、自分でも作ったりしてたので懐かしさはあんま感じなかった。
「晴近君は一人で寂しくなかったかい? 何だったら私たちの部屋にくるかい?」
「俺は子供か……別に平気だよ」
朝から絶好調だなこの人は。何が悲しくて夫婦部屋で寝泊まりしなきゃならんのだ。気まずいにもほどがあるだろ。
フューリーの雑なおちょくりに苦い顔をしていると、ノインが真面目くさった顔で爆弾を落とす。
「だったらルナと一緒に寝ればいい」
「ぶっ……ごほっごほ!?」
味噌汁を啜っていた最中だったルナリアが、思い切りむせた。
「小官は一人部屋でも構わない。今日から交換する?」
「いやー、それは……」
考えなかったかと言われたら、申し訳ないが嘘になりますねはい。俺も一応健全な元男子高校生なんで。
かと言って、実際にルナリアと同部屋にされたらそれはそれで困る。昨日あんなことがあった後だし、絶対にギクシャクしてしまう。文字通り、眠れない夜を過ごすことになりそうだ。
「そ、そうよ! 男女で一緒の部屋に泊まるなんて……しかも二人きりなんて!」
「隊長たちも男女で二人部屋だから問題ない」
「この二人は夫婦じゃない!」
「結婚を前提に付き合っているなら、実質夫婦なのでは」
「け――結婚……!?」
「……クラッツァ、あまりカミカワをいじめてやるな」
頭から煙を吹きかけてるルナリアを見かねてか、久道さんが助け舟を出した。流石のノインも、久道さんの言葉には渋々ながら従う。
ようやく平和な時間が戻ってくるな……。
危険な話題が過ぎ去り、ホッと一息ついていると。
「よぉ、そっちは朝から賑やかだな……」
「昴か」
いかにも眠たげな声に振り返ってみれば、今にもたったまま寝そうなほど目をしょぼしょぼさせている昴が立っていた。
これから朝食のようだが、手に持ってるトレーを落とさないか見ていて心配になる。
「すげー眠そうだけど、もしかして寝てない?」
「おぅ……あの後も由季に独断専行に対する説教を長々とされた挙句、始末書やら損害報告やら色々書かされて……気づきゃ徹夜だ」
「それは……気の毒に」
てっきり間柴さんといいことでもあったんじゃないかと邪推したが、語られた内容は想像以上に世知辛かった。隊長ともなると、無事に帰って来れてめでたしめでたしでは済まないようだ。
間柴さんと言えば、昴は一人で食堂に来たらしい。仲間たちと一緒に食べたりはしないのだろうか。
「自分ちで飯が出る奴は、ここに来る必要ないからなー。俺も普段は自炊してるけど、今朝は飯作る気力もなかったからこっち来ただけだし」
「成程、そういうもんなんだな」
言われてみれば、俺も都市じゃ朝飯はシアと一緒に作ってた。そうでなくても、自分以外に食事を用意してくれる家族がいるなら、わざわざ朝から食堂を利用することもないのか。
自炊をしている理由については、聞かない方がいいだろう。東京の生活形態からして一人暮らしの可能性は低いし、きっと明るい話題にはならない。
昴は俺たちと一緒に食べることにしたようで、空いていたノインの向かい側――久道さんの隣に迷わず座った。物怖じしない姿勢は身分相応に肝が据わってるのか、それとも寝ぼけているだけなのかは、いまいち判別がつかないとこだ。
すると意外にも、久道さんの方から昴へと話しかけた。
「朝までお勤めご苦労様です。此度は災難だったようで」
「あ、はいどうも……昨日も思ったんですけど、敬語やめません? 明らかに年上で格上の相手に畏まられるのって、凄い違和感があるんですけど」
「そのような訳には。ガーディアンの一部隊員である自分と、迅龍隊の隊長である鷹見殿では明確な身分差があります。そちらこそ、言葉を崩していただいて構いません」
「んな無茶な……」
昴が救いを求めるような視線をこちらに向けてくるが、無言で首を振った。
諦めろ。久道さんはこういう人だから。フューリーのからかいと違って、一〇〇パーセント善意の人だから。
そういや、俺が入隊した時もため口でいいとか言ってきたっけ。あの時は何とか躱したが、今回は肩書を盾にゴリ押してるな。
思いがけなく懐かしみを覚えていると、とにかく久道さんとの一対一から逃れるべく昴が声を張った。
「と、ところで! 今日は皆さんどのようなご予定で!?」
「ふむ、この後は翠君に少々頼まれごとをされていてね。研究室を訪問することになっている。秀一君とノイン君はその付き添いだ」
「へぇ、じゃあ晴近とカミカワさんは?」
「特に何もないぞ。誰か案内してくれる人でもいれば、地下都市を見て回ろうかと考えてたくらいだ」
「案内か……してやりたいのは山々だがこの後はなぁ」
どうやら用事があるらしく、難しい表情をする昴。別に直接頼んだわけじゃないのに、こうして頭を悩ませるとこに人の良さが現れるな。
しかしすぐに妙案が思いついたらしく、明るい表情で顔を上げた。
「そうだ! 二人も俺と一緒に来ればいいんじゃね?」
「来ればいいって、どこにだよ」
「学校」
「あぁ、学校ね……何だと!?」
さも当然のように飛び出した単語だったので、危うくスルーしそうになった。
今こいつ、間違いなく学校って言ったよな? 聞き間違いじゃないよな!?
ルナリアは驚いてないみたいだから、知らなかったのは俺だけか……。
「え、そんな驚いてどうしたん……あ、そうか。むしろ無い方が当たり前だったな」
俺たちの驚きっぷりに当惑していた昴だが、すぐに合点がいったようだった。
「学習プログラムがあるから家でも勉強はできるけど、それじゃ引きこもりが加速するだろ?」
ただでさえ二四時間を屋内で過ごしているような状態で、それは若者たちの健全な成長に悪影響を及ぼすのではないか。
過去にそんな意見を提唱した人がいたらしい。最終的に研究室の一区画を教室とし、年齢ごとに学習プログラムに沿った授業を行うことにしたそうだ。なお参加は希望制で、高校レベルにあたるクラスは狭い教室が埋まらない程度の人数らしい。
「席なんて腐るほど空いてるし、どうせ暇なら体験入学でもしてみようぜ」
「そんな簡単に出来るものなの?」
「大丈夫大丈夫、翠先生はその辺かなり融通聞くから」
「昨日も先生って呼んでたな……もしかしてあの人が教師を?」
「おう。教え方が上手だから、一人で勉強するより断然捗るぞ」
翠さんが教師か。言われてみると、結構はまり役のような気がする。地位の割に親しみやすさが滲み出ているのは、教師として常日頃から年下の子供と接する機会が多かったからかもしれない。
……さて、体験入学か。
興味はある。その一方で、ほんの少しだけ躊躇う気持ちも。
これだけ俺の知る日本とかけ離れている以上、学校もその例外ではないはず。たったの一クラス、それもごく少数。教師役だって、あの翠さんが受け持っている。
ああ、わかってるとも。
自分にそう言い聞かせ、返事をする。
「そういうことなら、邪魔してみるかな。ルナリアはそれでいいか?」
「ええ。東京の学校って噂には聞いてたから、ちょっと楽しみね」
ルナリアの故郷である合衆国にも学校は無かったようなので、まとまった人数が集まって授業を受けるのは新鮮だという。楽しんでくれれば幸いだな。
「じゃあ、俺とっと家戻って支度してくるわ! 迎えに来るから二人はここで待っててくれよな」
話が決まるが早く、昴は朝食を物凄いスピードでかっ込み食堂を後にする。食器やトレーはちゃんとカウンターに返していった。
それを見送った後、黙って成り行きを見ていたフューリーが口を開く。
「中々面白いことになったじゃないか。ノイン君も受けて来ればどうだい? 授業中くらいなら秀一君だけでも護衛は足りると思うが」
「あらいいじゃない、ノインも一緒に行きましょう?」
「いえ、遠慮しておきます」
フューリーの提案にルナリアもかなり乗り気だったが、ノインはあっさりと固辞した。
「えー、何でよ。案外楽しいかもしれないわよ?」
「小官はまだ中等教育なので」
「あ……そういえば、そうだったわね」
すげなく断られて拗ねた様子のルナリアだったが、理由を言われた途端に納得したようだった。
普段の言動とか立ち振る舞いが落ち着きすぎてるせいで忘れがちだが、ノインはまだ一四歳。俺の感覚で言えば中学二年生で、シアやエリカと一つしか違わないのだ。
ノインのことだから、しれっと高等、下手すりゃエリカよろしく大学レベルまで飛び級しているかもと考えていたが……そこは年相応だったんだな。
「まあ、そういうことなら無理には言わないさ。こちらは護衛を頼んでいる身だしね」
「職務を全うさせて頂きます。ルナとハルチカも、小官のことは気にせず楽しんでくるといい」
「そうね……残念だけど、仕方ないかぁ」
淡々としたノインとは対照的に、ルナリアは心底残念そうだった。
それから朝食を終え、俺とルナリアは工廠へ向かう三人を見送りつつ食堂で待機する。
時刻は八時を少し過ぎた頃。俺が家を出ていたのも大体このくらいの時間で、学校に着くのはホームルームの一〇分前くらいだったな。たまに二度寝をしてしまい、遅刻しそうになって通学路を走ったのも今ではいい思い出だ。
あれからもう一か月……それとも、まだ一か月なのか。
ぼんやり考えていると、程なくして待ち人はやってきた。
「おっす、待たせたな……って、どうしたよ。目が点みたいになってんぞ」
「その服って、もしかして制服か?」
「よく知ってるな。こういのは形式も大事だとか言って、わざわざ用意したらしいぜ」
俺たちを迎えに来た昴が着ていたのは、一目で制服とわかるものだった。俺が通っていた学校のものとは微妙にデザインは異なっていたが、まさかこっちの世界でブレザーなんて見ることになるとは思わず、ついマジマジと見てしまった。
「私たちも着た方がいいのかしら」
「あくまで体験入学だし、別に大丈夫だよ。ちょっと目立つかもしれんが」
「今から準備するのも面倒だしな……それで、教室ってどこにあるんだ?」
「こっからそう離れてはないぜ。普通に歩いて五分くらいだ」
昴はついて来いとでも言うように手招きし、食堂の外へと歩き出す。俺とルナリアもその後に続き、すれ違う職員の人たちに軽く会釈しながら通路を進んでいく。周りが自分より年上の大人ばかりという環境も、管理局とよく似ていた。
特に道中で気になることはなさそうだし、丁度いい機会なので昨日から疑問に思っていたことを訪ねてみた。
「昴は……昴たちは、どうして≪迅龍≫のパイロットに志願したんだ? 命の危険もあるのに」
「おおぅ、随分と急だな。ていうか命の危険に関しては、ガーディアンの晴近には言われたくないぞ」
「それは……まあそうだけどさ。こうして学校に通いながら変異体とも戦うのって、すごい大変なんじゃないか?」
東京という地下都市は、徹底的に変異体と遭遇するリスクを排除するように出来ている。ここで丸一日も過ごしていない俺にだってわかる。だからこそ、昴たちが≪迅龍≫に乗って外に出る行為は、無用なリスクを背負いこんでるんじゃないかと考えてしまう。
少なくとも、俺と同い年の学生がやらなければいけないことでは無いはずだ。昴の家庭事情は知らないが、暮らしていくためにしたって、もっと安全んで学業とも両立しやすい仕事があるだろう。
敢えて死の危険を冒してまで、今の仕事を続ける理由があるのだろうか。
「うーん、そうだなぁ。学校自体は毎日ってわけじゃないし、そもそも休むのだって自由だから大変ってことはないかもな。んで、俺たちが戦う理由か」
少しだけ悩むようなそぶりを見せ、ふと視線を上げる昴。目の前の天井を眺めているというより、その遥か先にあるものを見通しているようだった。
やがて俺たちに向き直った昴は、困ったように笑いながら。
「≪迅龍≫に乗れば、外に出られる……少なくとも、俺の理由はこれだけだ」
「外、か」
それだけの理由でと思ってしまうのは、きっと俺と昴との間にある認識の差だ。
安全と引き換えに巨大な天蓋の下で暮らす彼にとって、〝外の世界〟というのは命を懸けるだけの価値があるのだろう。
「俺が生まれた頃にはもう、頭の上にはでかい蓋がされちまってたからな。外に出て空を眺めるには、他に方法がなかった」
「……他の三人も、そうなのか?」
「どうだろうな。阪井と木戸はともかく、由季に関してはたぶん違う」
自分で彼女の名前を口にした途端、昴は呆れかえった表情で言う。
「幼馴染だからって、わざわざ俺に付き合う必要なんてないだろうに。いつか本当に死んじまうかもしれないのにさ」
「そんなの、鷹見君のことが好きだからでしょ」
「……」
「いやいや、気づいてないとか言わせんぞ」
露骨に表情を消して目を逸らす昴の両肩を、俺とルナリアで素早く捕まえた。これまでの戦いによって培ったコンビネーションの前に、細かい意思の疎通など不要である。
「は、離せ! おのれお似合いカップルめ、息ぴったりかよ!?」
「初対面の俺たちですらわかるのに、幼馴染のお前が気付かないわけないよなぁ」
「むしろ、あなたたち何で付き合ってないの?」
「待て、待ってくれ。流石にそこまで唐変木じゃないんだって。でもこれにはちゃんと理由が――」
「いつ死ぬかわからないから? そんなの間柴さんからしたらどうでもいいし、理由にもならないわよ」
「ぐはぁ!?」
情け容赦ない女性からの意見が、昴の心を深くえぐった。
一撃で瀕死になった彼へ、ルナリアは更なる追撃を加える。
「別に付き合えと強制はしないわ。でも断るにしろ受け入れるにしろ、早い内にハッキリさせなきゃだめよ。いつまでも曖昧なままにしたら可哀そうじゃない」
「う、うぅ……でも、今の関係が崩れたりとか――」
「男のくせにヘタレたこと言ってんじゃないわよ!」
「ひぃ!?」
……けしかけといてあれだが、憐れになってきた。
今の昴の情けない感じは、都市に来た初日にシアの病室で、ルナリアに叱咤されてた俺と重なる部分がある。
たぶん、あの時から既に惹かれ始めてたんだろうな。思えば最初に俺とシアを助けてくれたのもルナリアだったし、右も左もわからなかった俺に一番世話を焼いてくれたのもルナリアだった。好きになってしまったのも、ある意味必然か。
彼女との出会いを振り返りつつ、何だか温かい気持ちになっていると。
「おま、お前ぇ」
不意にすぐ横から、地獄の亡者のうめきみたいな声が。
「人を針の筵に座らせてる横で思い出に浸るとか……どういう了見してんだこの人でなしめ」
「あ、ごめん。でもお前が悪い」
「な、納得、いかねぇ……」
肩を掴まれたまま、がっくりと項垂れる昴。
その後もルナリアによる恋愛相談(強制)は続き、昴が解放されたのは教室として使われている部屋に辿り着く直前だった。




