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次元都市アクシス  作者: 七夜
02 守護者たちの時間
62/104

エピローグ 2014/5/2

『本当にあれは「スルト」ではなかったんだな』

「ああ。回収したサンプルを解析したけど、どの遺伝子情報も既存のサンプルと一致しなかった」

『つまり、全くの偶然であると』

「そうなるね」

『俄かには信じがたいな』

「炎熱操作に巨人だからね。外見ならまだしも、能力まで全く同じだ。しかし可能性としてはありえなくも無いからなぁ」

『そうか。なら、例の件についてはどうだ』

「死骸の頭が空っぽだったことかい? こっちに関しては完全に意味不明だ。変異体も生物である以上、思考しないにせよ脳は必須のはずなんだけどね」

『頭部以外に脳髄が存在する可能性は?』

「大きさが大きさだけに解剖がまだ済んでないから何とも。終わり次第、エリカと一緒に検証していく予定だ」

『うむ……それで、何か心配事でもあるのか』

「ん、どうしたんだい急に」

『先程から声の様子が変だぞ』

「徹夜が確定しているからね。折角綺麗に保っている肌が荒れてしまうと思うと、気分が沈むよ」

『話し辛いことか?』

「……もう少し情報を精査してから伝えたい。現状、憶測の域を出ないのでね」

『無理はするなよ。あと、問題がないのであれば友柄の面会謝絶を解いてやれ……カミカワがドアに風穴を開けかねん』

「おっと、すっかり忘れてた。検査はとっくの昔に終わっているから、もう大丈夫だと伝えておいてくれ」

『了解した。では今からカミカワたちへ伝えにいこう』

「私もそろそろ作業に戻るよ。おやすみ、秀一君」


「……ふぅ」

 長時間の通信を終え、フューリーは椅子に座ったまま大きく背中を反らす。ずっと同じ姿勢をしていたため、全身の関節が小気味の良い音を立てた。

 防衛戦が終了してから、既に日付が変わるくらいの時間が経過している。三年前の惨事を思い起こさせるタイミングで発生した戦闘はしかし、春近とルナリアの働きによって殆ど人的被害を出すことなく集結した。

 特にルナリアが行った大規模攻撃について、フューリーは非常に興味を抱いていた。都市の防衛システムについて大幅な進歩が得られる可能性を垣間見たのだ。事が落ち着いたら彼女には色々と話を聞く必要があるだろう。

 二度に渡り能力を全開で使用したはずの春近の容体も、不自然なまでに良好だった。バイタルは健康そのものであり、外傷も時間遡行で完治。目を覚まさないのは肉体的というより、精神的な疲労の方が大きいからだと見ていた。

 長期的にはどうなるかわからないが、現状問題はないと考えられる。

「その内ひょっこり目を覚ますだろう……さて」

 自分以外誰もいない薄暗い一室で、フューリーは宙に投影された映像を見据える。


 普段の戦闘において、フューリーはなるべく介入しないようにしている。学者としての知見を求められればその限りではないが、戦いの素人である以上作戦に対する口出しはするべきではないと思っていた。

 ただし、友柄春近というイレギュラーが加わってからは話が別だった。

 彼の能力は戦局を大きく左右するのみならず、大小なりとも彼自身の存在を歪めていると予測されている。故に今回のような無茶をする際には、影響を定量化するためにもどのように力を使うのか予め聞き出しておく必要があったのだ。


 にもかかわらず。

 フューリーが連絡を取らなかった――否、連絡を取ることを忘れてしまったのは。

「三人組、か」

 視線の先にある映像は、B区のモール内を移動する三人組を追っていた。

 年齢も性別もバラバラな三人。服装も一貫せず、その辺にいた赤の他人が寄り集まったような印象を受けた。

 

 だが、そんな違和感も。

 ズームアップした瞬間、青年が遥か上空に位置する≪サードアイ≫を寸分違わず睨み付けてきたことに比べれば些細なものだった。


 タイミング的にも視線の位置的にも、決して偶然ではない。あの青年は確かに、こちらのことを――より正確には自分を監視している≪サードアイ≫を認識していた。

 この時点でも只者ではないとわかっていたが、加えてあの三人の人相に合致する人物は都市のデータベースに存在していなかった。外部から人が訪れるという報せをフューリーは受けていない。

「侵入者……だとしても、一体どこから?」

 フューリーは誰にでもなく独り言ちながら、映像を先へと進める。

 その後も彼らは、同じラインを歩いていた瑞葉と追突した以外は特に何事もなく、ただ散策するように都市を歩き続ける。本当にただ、時間を潰す様に。

 新しい動きがあったのは警報がなった直後だった。

 周囲の市民がパニックに陥る中、彼らだけは平然と人混みを掻い潜り突き進んでいく。

 そして不意に、≪サードアイ≫の視線を切るように建物の隙間へと入っていった。追いかけるような視点移動が、当時のフューリーの慌て具合を如実に表している。


 高速で映像が遷移し、≪サードアイ≫が件の路地裏を真上から映し出す。

 ただしそこには三人組どころか、人間は誰一人として存在していなかった。


「やはり何度見ても同じか……いや、笑い事ではないな」

 前にもこのように、自分の目を疑って幾度も映像を見直したことを思い出し、フューリーは苦笑した。しかしすぐに表情を引き締める。

 都市のセキュリティは非常に優れている。既存の技術に加え、≪サードアイ≫を始めとする次元技術を導入した監視システムは他の追随を許さない。

 だが現に彼らは監視の目を掻い潜り、まんまと都市に入り込んでいた。それどころか、忽然と姿まで消して見せた。

「一体彼らは何者なんだ……そもそも何を目的にして……駄目だ、皆目見当がつかん」

 いくら考えを巡らせても、これだと思える答えに辿り着けない。

 フューリーは確かに優れた頭脳を持つが、それはあくまで次元技術が関わってくる場面で最大のパフォーマンスを発揮するものだ。仮にこれが都市に反目する団体の陰謀だとしても、フューリーには具体的な対策を立てることなどできやしない。

「……うん、そうだな。それがいい」

 結局、この場で出せる結論としては。

「一通り資料にまとめて、秀一君と……あとはベイカー氏にでもぶん投げるか」

 政治は政治担当に、警備は警備担当に任せよう。

 適材適所とは素晴らしい言葉だと、フューリーはしみじみと思うのだった。


 ◇


「痛てて! あークソッ、一晩寝たのにまだ痛みが引かねえ……」

「あー駄目ですよラッド先輩。昨日の今日で骨くっついたばかりなんですから」

 ベッドから起き上がろうとしたラッドが苦痛に呻き、フィーダが窘める。ノインはそれを尻目に見舞い品のリンゴを、サバイバルナイフを使って器用に桂剥きしていた。


 彼らがいるのは都市の中央付近にある病院で、アクシスにおいては唯一の医療施設だ。一般人は勿論、管理局の職員も負傷や病気を患った場合はここで治療を受ける。一応管理局の中央にも治療を行える設備はあるものの、基本的に特別な事情がない限りは使用されない。

 そして何故、ラッドが病院に入院しているかと言えば。

「それにしても災難ですねぇ。まさかハルさんが蹴った反動で≪グラビティボード≫が壊れて墜落するなんて」

「あれは誤算だった……≪アブゾーバー≫も完全にオーバーヒートしてたし、マジで死ぬかと思ったぞ」

 春近が変異体へ向かって勢いよく飛び出した直後、フィーダたちが目撃したのは煙と悲鳴を上げながら落下していくラッドの姿だった。

 不幸中の幸いと言うべきか、都市そのものに働いている≪アブゾーバー≫のお陰で命に別状はなかった。あの高度からの自由落下で、打ち身と合計一五か所の骨折程度で済んだのは僥倖と言えるだろう。

 本人からすればたまったものではないが。

「足場としての面目躍如。間違いなくいい働きだった」

「その褒められ方じゃなんも嬉しく――痛ってー!?」

「まるで学習していない。あと病院内では静かにする」

「うぅ、オレ頑張ったはずなのに……」

 心なしか普段以上にキツいノインの態度に、寝そべったまま本気で泣きそうなラッド。そんな二人を見てフィーダは苦笑する。

 付き合いの長い人間から見れば、ノインのああいった物言いはじゃれているようなものだ。特にラッドへの当たりが強く見えるのも、それだけ彼に対し胸襟を開いている証である。

 そもそもどうでもいい相手の見舞いになんか来ないし、リンゴの皮を剥いてあげたりもしないだろう。恐らく照れ隠しも半分混じっているに違いない。

「ノイちゃん先輩は素直じゃないからなぁ」

「何か言った?」

「ナナナンデモナイデス!」

 瞳とナイフをギラリと輝かせたノインに、フィーダは思い切り首を横に振る。凶器を手にした彼女の側で、迂闊な発言をするべきではなかった。

 しばらく疑惑の視線を向け続けたノインは小さく鼻を鳴らし、リンゴをカットする作業へと戻る。一命を取り留めたフィーダは大げさなため息をついた。

「邪魔するぞー」

 丁度そのタイミングで、病室のドアが開かれた。

 瑞葉とミハイルの主従二人組に加え、シアの姿もある。春近が昨日の内に帰れる目途が立たなかったため、一晩だけベイカー邸の厄介になっていたのだ。

「やぁラッド。昨日は大変だったが、その様子だともう元気そうだな」

「このミイラルックを見て出てくる言葉とは思えねぇっすね」

「ラッドさん墜落したの? 唯一の取柄だったのに……」

「シアちゃんが思いの外辛辣ぅ!?」

「無理をせずゆっくりと休んでいてください。ナノマシン医療は早期回復が望める分、体力を消耗しますから」

「うぃっす。あぁ、入院して初めてかけられた温かい言葉が染みるぅ……」

 ミハイルの普段と変わらない紳士的な対応に、ラッドは本気で泣きそうになった。

「ん、ルナリアは来ていないのか?」

「ルナなら、恐らくまだ管理局の方にいる」

 部屋を見渡し、本来ならばこういう見舞いを欠かさない少女がいないことについて瑞葉が首を傾げていると、すかさずノインが答えた。

 今回の戦闘にて、二度に渡り限界を超えて能力を行使した春近の精密検査は非常に長いものとなった。フューリーから面会の許可が下りたのも、ちょうど日付が変わった頃のことだ。

 検査が終わった後も疲れからか当人が目を覚ます様子は無かったので、その場に残ると言い、頑として動こうとしなかったルナリア以外は一度解散したのだが。

「ハルチカが目を覚ましたら連絡すると言っていたが、未だに連絡はない」

「では面会謝絶が解けてからずっと向こうにいるのか? あれだけのことをした後だ。自分も相当疲れているだろうに」

「それほど心配だったのでしょう。開かない扉を親の仇を見るような目で見てましたし」

「……あの時のルナは鬼気迫っていた」

 昨晩のことを思い出すと、大抵のことには動じないノインですら軽く身震いする。

 あと少しでも許可が遅ければ、≪サイレントルーラー≫の最大火力が火を噴いていたに違いない。

「ラッド先輩が口を滑らせたからですよ」

「わ、悪気はなかったんだって」

 言い訳こそすれ迂闊な発言だったという自覚はあり、反省の色は濃い。

 今でこそ済んだ話として軽く扱われているが、ラッドの負傷は普通に重傷である。当時はそれなりに心配されていた。

 病院へ搬送される際、少しでも周囲を安心させようとしたのか彼はこんな発言を残していったのだ。「生身で突っ込んだハルチカが味わった苦痛に比べりゃ屁でもない」と。

 敢えて春近が隠していたことを意図せずしてバラした形になり、それからルナリアはずっと気が気でなかったのだろう。

「ていうか、シアちゃんはあんまり心配してない感じ?」

「んー心配はしてるけど、何となく大丈夫かなって。ルナリアさんもついてるし」

「実はハルさんとっくの昔に起きてて、逆にルナ先輩が眠ってたりして」

「疲労を考えれば充分にあり得るが。まあどちらにせよ、我々が向かうのはもう少し様子を見てからでいいだろう」

「どうしてです?」

「二人だけの時間が必要だと思ってな……と言うより」

 そこで瑞葉は言葉を切ると、ふと真顔になり。


「目の前でイチャつかれても困るからな」

「「「「……確かに」」」」

 妙に含蓄のある発言にラッドたちが渋い表情で同意を示す中、ミハイルだけはコメントを控え、ただ苦笑するのだった。


 ◇


「……またここか」

 目が覚めたと同時に目に入った、もはやお馴染みとなりつつある天井に思わずそんな言葉が漏れる。これから先、戦いの後はもれなくここで目覚めるのがデフォルトになるのではないか。そんな予感すらしてきた。

 ここでベッドの傍らにある椅子に座ったフューリーが「やぁ」とでも言ってくれば完璧なのだが、今回は勝手が違うらしい。

 静かな部屋の中には、規則正しいリズムで小さな呼吸音が響いていた。俗にいう寝息というやつか。当然ながら俺のではない。しかも何かが腹の辺りに乗っかっているらしく、軽い圧迫感。

 音が聞こえてくる方向から鑑みても発信源はそこにあるようなので、俺は首だけをどうにか動かし重量物の正体を確かめる。

 すると目に映ったのは。

「ルナリア?」

「……」

 椅子に座っていたのは、フューリーではなくルナリアだった。

 いつからここにいてくれたのかは知らないが、途中で疲れて眠ってしまったようだ。俺を枕代わりに、可愛らしい寝顔を晒している。

 生活エリア――都市の三分の一に渡る地域を同時に攻撃するための演算で、相当脳を酷使したはずだ。軽く声をかけた程度では起きないのも当然か。

 できればこのまま寝かせてあげたいけど、俺も意識を失った後の顛末を知りたい。他の人を読んで説明してもらってもいいんだが、ルナリアの無防備な姿を独り占めしたいという心理が働いてしまい憚られた。

「既に独占欲が出始めたか……我ながら凹むな」

 とはいえ嫌なものは嫌なのだから仕方ない。

 そう開き直り、今度はもう少しだけ気合をいれて起こしにかかる。

「ルナリア、もう朝だぞ」

「んぅ……」

 時刻は十時過ぎで朝と言うにはちょっと遅いが、自分が寝起きなので気分的にそう言いながらルナリアの肩を優しく揺する。

 よほどいい夢でも見てたのか、初めこそ眉根を寄せ嫌そうに身じろぐルナリア。しかし次第に意識が覚醒してきたらしく、ゆっくりと目を開いていく。

 やがて半分ほど開かれた寝ぼけ眼が、俺の姿を映した。

「おはよ」

「んぇ?」

「なんだ、まだ寝ぼけてるのか?」

「……はるちか?」

「それ以外の何に見えるんだよ」

 つい最近似たようなやり取りをしたが、ここまで間の抜けたものだっただろうか。記憶にあるそれとのギャップに思わず笑みが零れる。

 しばらくボーっとした表情で俺のことを見つめていたルナリアは、眠気を追い払うように何度か目を擦ってから再び俺を見て。

「――春近!?」

「うわ! な、なんだよ急に」

 突然弾かれたように起き上がったかと思えば、物凄い勢いで詰め寄ってきた。

 一息で鼻先がぶつかりそうな距離まで近づかれドギマギしていると、今度は俺の顔や体をペタペタと触り始める。

 い、一体何なんだ……。

「えーっと、ルナリアさん?」

「よかった、目が覚めたのね! 体は大丈夫? どこか痛むところとか、違和感があったりはしない!?」

「いや、そういうのはないけど」

「本当に? 変に強がったりしてない? もしかしたら見えてないところに傷とか残ってるかも……確認するから服脱いで!」

「ちょっいや本当に、本当に大丈夫だから! 頼むから服を引っ張るな一旦落ち着け!」

 あまりの剣幕に得体の知れない恐怖を感じ、本気で俺を全裸にしにかかってくるルナリアの両肩を掴んで押し留める。

 必死に抵抗されたことで冷静さを取り戻したのか、若干躊躇いつつも服から手を放してくれた。

「やれやれ大げさだな。どうみてもピンピンしてるじゃん俺」

「……大げさ?」

「え?」

「大げさな訳ないじゃない!!」

「ヒィ!?」

 一度収まったのに、今度は至近距離で噴火した。

 もう完全に元気ですよアピールのつもりだったんだが、どうやら対応を間違えたらしい。

「音速以上の負荷に≪アブゾーバー≫も使わず耐えてたんですってね。作戦説明の時わざと黙ってたでしょ? ラッドに言われなきゃ危うく気づかないところだったわ」

「んな! おのれラッドのやつ余計なことを――」

「ちょっと黙ってなさい」

「はい」

「大体倒した後のことだって考えてなかったんでしょ。もし久道さんがミハイルさんを進行ルート上に飛ばしてくれてなかったら、どうなってたかわかってる?」

「それに関しては返す言葉もございません……」

「で、何が大げさですって?」

「心配させてすみませんでしたー!」

 能面で迫ってくるルナリアに対し、俺はもはや平謝りするしかなかった。ベッドで寝ているのに、針のむしろに正座させられている気分だ。

 だが何もかも身から出た錆。自業自得である。全力で頭を下げたまま、追撃の言葉を甘んじて待つ。

 ……来ないな。

 ていうか急に静かになったぞ。これはこれで恐いんだけど。

 水を打ったように静かになった空気に居心地の悪さを感じ、俺は恐る恐る顔を上げ。


 絶句した。

「本当に……本当に、心配したん、だから」

 声を震わせるルナリアの瞳から、滝のように流れちる涙。堰を切ったように溢れ出る涙が頬を伝って零れ落ち、ベッドのシーツに大きな染みを作っていく。

「痛みも苦しみも全部あなたに押し付けて、夜になっても目を覚まさなくて、もしずっとこのままだったらどうしようって思ったら……!」

 取り留めのない言葉に含まれている感情が伝わってくるたびに、胸の奥が痛みを発した。自分の浅慮が、無謀が、どれだけ彼女に心労を強いていたのかを実感する。

 涙を拭おうと伸ばした手を、ルナリアが両手でそっと握り返してきた。込められた力は強く、まるで本当に俺が存在しているのかを確かめているかのようだ。

「お願いだから、独りで頑張らないで」

「うん」

「私を、独りにしないで」

「わかった……全く、これじゃさっきと逆だな」

 あの時した約束を。俺が一方的に破りかけてしまった約束を、再びこの場で交わす。

 独りで背負うなと言った矢先に、独りで突っ走ってしまった。またルナリアに失わせる可能性だってあったのに。

 俺はもう、この手を離してはいけないんだ。

「……」

「……あー」

 互いに見つめ合ったまま長いこと沈黙が続き、流石に気まずくなってきた。ルナリアもとっくの昔に泣き止んでいるが、何故か手を離してくれない。

 空気を切り替えるべく、俺から口火を切る。

「えーっとそれで、他の人たちは?」

「ラッドのお見舞い」

「何で!?」

「あなたが飛び出した反動でボードが墜落したそうよ」

「何てこった、後で謝らねえと! そうだ、シアはどうしてる?」

「昨日は瑞葉さんの家に泊まったみたい。今頃一緒に病院へ行ってるんじゃないかしら」

「瑞葉さんたちにお礼言わなきゃな……いや、久道さんやノインたちにもか」

 戦いは無事に終わったものの、これからやるべきことは多いらしい。思わずため息が出てくる。

 するとルナリアが小さく吹き出した。

 ここで目覚めてから初めて見る、彼女の笑顔だった。

「どうしてため息なんかついてるの?」

「今回も色んな人に迷惑かけちゃったなぁって」

「今更よそんなの。春近はここに来てから、ずっと周りに迷惑かけっぱなし」

「ひどいな……否定できないのが辛いとこだけどさ」

「本当にね。でも、まあ安心しなさい」

 ルナリアが手を握ったまま俺のすぐ側へと近づいてきて、ベッドの端に腰を掛けるとそのまま身を寄せてくる。肩口を彼女の金糸の髪が覆い、小さな風と共に花のような香りが薫った。

「例えみんなが愛想を尽かしても、私はずっと側にいてあげる。だから、その」


「今はもう少しだけ、寄りかからせて……ね」

「……おう」



 ――歩んでいこう。

 失って取り戻して新たに得ながら、過去を乗り越えて。

 例え世界が変わろうとも、かけがえのない今を生き抜こう。

 望む未来を目指して、この子と一緒に――

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