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次元都市アクシス  作者: 七夜
02 守護者たちの時間
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Chapter03-1 迷える二人 2014/5/1 14:20

文章を微修正しました。

「――以上です。ご清聴ありがとうございました」

 そう締めくくってぺこりと一礼するエリカに、俺たちは小さな拍手を送る。

 時計を見てみれば、聞き始めてから一時間ほど経っていたようだ。後半の方はより専門性の高い話になっていって俺とルナリアは殆ど置いてけぼり状態だったが、何となく知識は深まった気がする。

「改善すべき点は多々あったが、まあプログラムの課題レベルなら問題ないだろう。今後とも精進したまえ」

「はいはい」

 傲岸不遜に評価を下すフューリーだが、キャリアの差があるからかエリカはそれを素直に受け止めている。学者としての母親は信用に値しているようだ。

 リアル空気椅子状態だったフューリーはごく自然な動作で床へと降り立ち、今度はこちらへと話を振ってきた。

「さて、これから君たちは買い物かい?」

「そうだけど、何か他に用事でもあんの?」

「用事という訳ではないのだが……」

 フューリーはそう言うと、プレゼン中に表示したウィンドウを片づけているエリカの元へ近づく。急に寄ってこられてキョトンとしている少女の頭へ彼女はポンと手を置き。

「もし良かったら、エリカも連れて行ってあげてくれないか? あまり研究ばかりに傾倒させてると女子力が育たないからね」

「……お母さんだけには絶対に言われたくないんだけど」

「何を言う。結婚して子供までいる私は女子力に満ち溢れているじゃないか」

「それを女子力とは言わねえよ……まあ、俺は別に構わないよ」

 フューリーの言ってることは滅茶苦茶だが、言わんとしていることは理解できた。

 要するに、もう少しだけエリカをかまってやって欲しいのだろう。話を聞く限りでは研究に没頭するあまり年相応に遊ぶ機会も少なそうだし、これがガス抜きにでもなってくれるなら幸いだ。

 もちろん、同行者にもしっかり確認は取る。

「ルナリアも良いよな……ルナリア?」

「……え、何?」

「何って。話聞いてなかったのかよ」

「き、聞いてたわよ。少しボーっとしてただけ。私もエリカが一緒に来ることに異存はないわ」

 話はちゃんと聞いていたようだ。

 また不調なのかと思ったが、あまり心配しすぎるのも失礼か。人間誰でもボーっとする時くらいあるだろうし。

「俺たちは良いとして、エリカはどうだ? 無理強いはしないが」

「是非お供させていただきます!」

 殆ど食い気味の返答だった。

 フューリー発の提案ではあったが、本人が乗り気なら言うこともない。

 でもこうなってくるとこの場にシアがいないのが悔やまれるな。

 年が近くて学生で、しかも女子。もしエリカが男だったら俺も兄として思う所があったかもしれないが、その点でも心配なし。

 今からでも呼び出してみるかとも考えたが、そうなるとシアがこっちに来るまでの約一〇分間、ルナリアを余計に待たせる羽目になるんだよなぁ。流石にこれ以上迷惑になるようなことはしたくない。

 現地集合という手も無くはないが、シアを一人で出歩かせるのにも不安が残る。都市で過ごした時間は俺より長いし道に迷ったりする心配はしてないけど、それ以外にも問題は色々あるのだ。

 何せシアは可愛い。

 兄馬鹿と言われてしまうかもしれないが、事実なのだから仕方がない。客観的に見てもシアは美少女のはずだ。将来が実に楽しみである。

 そんな子が一人で町に繰り出そうものなら、当然良からぬ輩が寄ってくるに違いない。ナンパとかスカウトとか、絶対に来る。

 もしその現場を押さえてしまったら、俺は。

「冷静でいられる気がしない……!」

「何が?」

「はっ!? い、いや何でもない独り言」

 いかんいかん、つい心の声が漏れ出してしまった。

 とまあ諸々の理由があるし、無理に呼ぶ必要もないだろう。今日だけしか会えないという訳ではないのだし、シアとエリカを引き合わせるのはまた別の機会にすればいい。勉強の邪魔になっても悪いからな。

「じゃあそうと決まればそろそろ……うん?」

 飛び入りのイベントはあったものの、当初の予定通り買い物へ向かおうとしたその矢先だった。

 いつの間にか新規メッセージを着信したという通知が来ていた。時間的にはエリカの話を聞いている最中で、聞き入っていたから全く気付かなかった。

「メールが来てたのか……ノインからだな。えーっと何々」


『至急管理局一階のラウンジへ来たれり。From:ノイン・クラッツァ』


 来たれりって。妙にメールの文章が堅いんだよなあいつ。

 しかし至急と来たか。何か緊急事態でも発生したのだろうか。

 これ以上のイレギュラーはそろそろ勘弁して頂きたいが、どうせ通り道だ。さっさと話しを聞いてしまうのが吉だろう。

 ノインに見るのが遅れたことに対する謝罪と今すぐ向かう旨を返信しつつ、俺たちはフューリーの下を後にした。


 ◇


 ルナリアとエリカを伴い、指示された通りの場所へ行った俺を出迎えたのは。


「あー! やっと来ました!」

「遅すぎる」

「通知切ってたのか?」

 別れた後、先日と同様に射撃場へ行っていたはずの三人だった。

 しかも彼らに加え、更にもう一人。


「もー待ちくたびれちゃった」

「シ、シア!?」

 家で留守番をしていたはずのシアが、何故かラッドたちに囲まれた状態で頬を膨らませていたのだ。

 一体これはどういうことだ?

 予想外の事態に呆然としていると、歩み寄って来たシアが俺に向かって拳を突き出してきた。

 どうやら何かを握っているらしく、おっかなびっくり手を差し出すと開かれた指からポトリと何かが俺の手のひらに落とされた。

 さして重量のない金属製のそれは――

「これ、正宗仕舞ってる≪タグ≫じゃん!?」

「リビングのテーブルに置いてあったの。お兄ちゃん忘れていったでしょ?」

「マジかぁ……」

 確かに今朝は家を出るまで頭を悩ませていたが、まさか一番大事な仕事道具を忘れてしまうとは。

 我ながら少々腑抜け過ぎなのではないか? あれから数日間迎撃戦すら発生しなかったせいか平和ボケが進行しているのかもしれん。

「シアちゃんわざわざ本棟まで届けに来てくれたんですよ。ホントいい子です!」

「ハルチカは兵士としての自覚が足りない」

「深く反省しております……」

 三つ年下の少女に説教をされる元高校生の姿は実に情けないものだ。醜態である。

「まあ誰にでもミスはあるって。オレも戦闘中に≪アブゾーバー≫起動し忘れるのとかざらにあるしな」

「ラッド・マイヤーズは論外。こういうのから早死にする」

「辛辣ぅ!? 良いんだよ当たらなければ!」

「まあラッド先輩は直接戦闘するポジションじゃないですしね」

「見た目によらずサポートタイプなんだよなラッドって」

 機動力を生かした後衛の移動補助や、敵のかく乱。場合によっては負傷者の運搬や避難誘導もこなす。

 こうしてラッドの役割を羅列すると、完全にサポート職なのがわかる。RPGで一人は欲しい感じの役割だな。

「へぇ、ラッドさんって移動足場以外にもすることあるんだね」

「……なぁシアちゃん、その呼び方やめよ? 割と本気で凹むから」

 全く悪意のない言葉ほど心を抉るものはないな。

 歎願するラッドの辛さは痛いほどによくわかった。

「そういえば、お前らって射撃場に行ってたんじゃ?」

「ラッド先輩が銃のリコイルでへばったので、休憩でもしようと本棟に戻ってきたらシアちゃんが所在なさげにしてたんですよ」

「忘れ物を届けに来たのはよかったんだけど、お兄ちゃんがどこにいるかわからなくて」

「あー、そういやシアに今日の予定は言ってなかったな」

 受付のお姉さんに尋ねても居場所がわからず、途方に暮れてたようだ。どうもフューリーとの実験は完全に研究室管轄で、管理局勤めの職員には認知されていないらしい。

 これに関してはしっかりスケジュールを共有しなかった俺が悪い。

 つーか忘れ物してなければシアがわざわざ来ることもなかったわけで、全面的に俺が悪いのか。

 ……妹が出来たからって、浮かれすぎているのかな。気を付けなければ。

 取りあえず、三人には礼を言わなきゃいけないだろう。

「シアのこと見ててくれてありがとうな」

「言いっこなしですよ! 困ったときはお互い様です」

「市民の保護は兵士の務め」

 フィーダとノインは恩着せがましくなく言ってくれる。

 やはり持つべきは良い友人だ。

「実質、シアちゃんは俺らの妹みたいなもんだしな」

「は? いつからシアがお前の妹になったんだよぶっ飛ばすぞ!」

「何でオレにだけマジなトーンでキレるんだよ!?」


「……あんな兄だとこの先苦労しそうね」

「あ、あはは……」


 ――閑話休題。

 予期せずしてというか俺の不注意によるものだが、結果としてシアと合流することと相成った。

 となればすることは一つ。

「エリカ、この子は俺の妹でシアって言うんだ」

「と、友柄シアです。あなたは?」

「私は久道エリカです。あの、シアちゃんって今幾つ?」

「今年で一三だよ」

「わぁ、同い年だ! 今まで一番年の近い子がノインちゃんだったから新鮮かも!」

「シアもシアも!」

 最初こそお互い探り合うような感じになっていたが、二人の会話はあっという間に盛り上がりを見せていた。

 やっぱこっちのご時世だと同年代との会話は希少なんだな。本人たちが嬉しそうで何よりだ。

 もっとも、エリカにちゃん付けで呼ばれたノインは憮然とした表情をしているが。

「遺憾の意を表する。小官はエリカたちより年上」

「年上っつっても一つしか違わねえじゃん」

 ラッドの言う通り、一三も一四も大して変わらない気がする。

「黙れ童貞」

「ど!?」

 とはいえ手痛い反撃が来ることは明白なので、ラッドと違い直接言ったりはしないのだが。

「もう大学課程のプログラム受けてるの?」

「うん。研究を手伝うなら最低限高等教育は済ませなさいってお母さんが」

「すごいなぁ。ねぇ今日じゃなくてもいいから勉強教えて! 最近出た課題でわからないところがあったの」

「それなら今度ウチに遊びに来なよ! 管理局からそんなに遠くないし」

 ラッドが打ちひしがれている間にも、シアはもうエリカ宅へお邪魔する予定を立て始めている。打ち解けるの早いなあ。

 エリカ宅――つまり久道家か。久道さんには訓練とか仕事とかで常日頃からお世話になってるし、フューリーにもまあ……世話になってることにはなっている。シアが遊びに行くなら何かしらお土産を持たせよう。でも家に何も無いな。

 何かしら買っておくべきか……って。

 そういえば今から買い物行くんだった。忘れれるところだった。

 折角エリカと仲良くなったことだし、シアも連れていくか。

「今からルナリアやエリカと買い物に行くけど、シアも来るか?」

「え、買い物? 行く行く!」

 シアは二つ返事で同行を望む。

 単純に買い物に行きたいというのもあるのだろうが、様子を見る限りもっとエリカと話をしていたいという気持ちの方が強そうだ。

 仲良きことは良きことかな。二人にはこれから先もいい関係を築いて欲しい。

 しかし、これはどうしたものか。

 シアがついてくるならルナリアが同行する理由もほぼ無くなってしまうのでは?

 でも実験にまで付き合わせておいて今更「あ、もういいよ」と追い返すのはもう人として駄目な気がする。

 ていうかルナリアは気付いていないのか?

 いつもなら真っ先に気付いて指摘してきそうなものだが。

「……その視線は何?」

「い、いや別に?」

「そう。話が決まったのなら早くいきましょう」

 と言って、ルナリアはむしろ自ら率先して買い物に向かう姿勢を見せている。

 ……まあ、敢えて指摘して気を使わせることもないだろう。俺より一人暮らし歴の長い彼女が一緒なら単純に心強いし。

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くよ」

「行ってらっしゃいですー」

「グッドラック」

「何よその意味深な親指は」

 去り行く俺らへフィーダは緩く手を振り、ノインは何故かルナリアに向けて神妙な表情で親指を立てる。

 なお、ラッドは意気消沈し膝を抱えたまま動かなかった。

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