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次元都市アクシス  作者: 七夜
02 守護者たちの時間
43/104

幕間 奇妙な三人組 2014/5/1 14:00

「ふーむ、どこへ目を向けても珍妙な景色だ。やはりこの都市は我輩の故郷と比べて随分と進んでおるな」

「随分とってレベルじゃないと、思う」

「二人とも、あまりキョロキョロしない方がいいよ。目立つ上に田舎者みたいだ」


 昼時をやや過ぎたB-8のモールは、平日でありながら多くの人が行き交っている。

 そんな中で一見他愛もない会話をしている彼らは、傍から見ると中々にもの珍しい組み合わせであると言わざるを得ない。

 一人は、二メートル近い初老の男。白髭を蓄えた堀の深い顔には皺が目立つが肉体に痩せ細り衰えた気配はなく、周囲を見渡す瞳からは時折猛禽の如き眼光を放っていた。

 一人は、その大男の腰辺りにようやく頭頂が届くくらいの少女。表情からは感情というものが一切失せており、容姿の可憐さも相まって西洋人形のような印象を与える。

 一人は、日本人の平均程度の身長を持つ青年。非常に中性的な美貌の持ち主であり、すれ違った人物は同性ですら思わずと言った様子で振り向いてしまうほどだ。

 背丈も性別も外見的特徴も点でバラバラな三人組は色々な意味で目立っているのだが、そのことを問題視しているのは今の所青年のみだった。

「みたいも何も、我輩らは全員田舎者のようなものであろう? 少なくともこの都市に住まう者らと比べてしまえば」

「気にしてるのはそっちじゃないよクラウスさん。ただでさえあなたは目立つんだから、もう少し慎ましく行動してもらわなきゃ」

「ユキヤは人のこと言えない」

「ははは、何を言ってるんだエルナ。僕は二人と比べれば至って地味な日本人だよ」

 自分の容姿を自覚していないのか、少女からユキヤと呼ばれた青年は面白い冗談を聞いたかのように笑う。それを近くで見ていた女性の何人かが卒倒しかけていたのだが、彼らは気付くことなく歩みを進める。

 何処かへ向かっているという風でもなく、ただ人の流れに任せているような動きだ。青年は勿論のこと、同行する二人も立ち並ぶ店に興味を持ちこそすれ、立ち寄ったりするような気配はない。他にすることが無く、ただ歩き回ることで時間を潰しているようだった。

 まるで、約束の時間に来ない待ち人を手持無沙汰に待つように。


「――ッ」

「見られたか、榊幸也よ」

 不意に、ピクリと青年――榊幸也の肩が小さく跳ねた。

 意識を向けていなければ気付けないほど僅かな反応だったが、よそ見をしていたはずのクラウスは目ざとく反応する。

「……そのようだね」

 違和感をもみ消すように首元を撫でながら、幸也は視線だけを空へ向けた。

 見上げた先――地上から五〇〇メートル以上離れた上空には、円盤の中心に魚眼レンズを取り付けたような機械が空中でぴたりと静止している。

 これだけ距離が離れているにもかかわらず、彼にはその機械の詳細な外見はおろか、カメラの焦点が自分たちへと向けられていることすら正確に把握できていた。

「≪サードアイ≫か。ふん、存外早く捕捉してきたではないか」

 鼻を鳴らすクラウスだが、言葉とは裏腹に声には喜色が満ちている。うずうずと動き出した手は、今にもコートの内側へと伸びていきそうだ。

 それを側で見ていたエルナが、声を潜めて問う。

「撃ち落とすの?」

「いや、放っておこう」

 否定し、制止したのは幸也だった。

「たまたまピントがあっただけかもしれないし。仮に捕捉されていた所で、市民データと照合して人員を送り出すまでには時間がかかるはずだ」

「むぅ……仕方なし」

 残念そうに佇まいを直すクラウス。

 ことあるごとに暴れたがる同行者が、素直に引き下がってくれたことに安堵していたのも束の間。

「うわっ!?」

「おっと」

 よそ見をしながら歩いていたせいか、先頭を歩いていた幸也は前から歩いてきていた女性とぶつかってしまった。

 大きくよろめいた女性の手を咄嗟に掴み取り、そのまま引き起こす。

「す、すまない。少々呆けていた」

「お怪我などはされていませんか?」

「いえ、こちらこそすみません。よそ見をしながら歩いていたもので」

 ぶつかられた側なのに、付き添いの男性共々殊勝に頭を下げてくる女性へ幸矢もにこやかに頭を下げて、再び人の流れへと戻っていく。

 ……執事を連れていたけど、どこかのお嬢様だったのかな。二人とも美形だったし、如何にも目立ちそうな二人組だ。

 自分らのことを棚に上げ、幸矢はふとそんなことを考えていると。

「どうしたの、おじ様」

 エルナの声に振り返ると、先程ぶつかってしまった二人をクラウスが目で追い続けているのが見て取れた。

 爛々と輝く瞳は、獲物を見定めた猛獣のそれと等しい。

「駄目だよクラウスさん。あなたの出番は今日じゃない」

「わかっとるわ。あ奴らも相応に歯応えのある者共のようだが、最初に狩る獲物は既に決めておる」

「じゃあ何で目で追ってるのさ」

「……一発くらいなら、誤射かもしれんし」

「そんな訳ないだろ」

 バカなことを言うなと、後方へ未練がましい視線を送るクラウスを半ば強引に引っ張っていく。その後ろからエルナがついてきているのを確認しながら、幸矢は再確認の意を込めてきっぱりと言い放った。


「合図が出るまでは大人しく待機。博士やトモノエたちと合流し次第、騒ぎに乗じて離脱するよ」


 ◇


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「……いや」

 従者であるミハイル・グッドマンに問われ、自分たちが先程まで歩いていた方を眺めていた瑞葉・ベイカーは神妙な顔で答える。

「さっきぶつかってしまった彼ら、随分と目立つ三人組だったな」

「確かに、そうですね」

 一見した所、人種も年齢もバラバラ。親子、もしくは祖父と孫たちと言うには似通った点が無さすぎる。明らかに血縁ではなかった。

 一人一人を見ても非常に特徴的なのに、ちぐはぐな組み合わせが一層強烈な印象を与えていた。

「あの優男も一瞬女か男か区別がつかなかったが、何よりあの大男だ。ミハイルよりもデカかったぞ」

「ええ、私もああして見下ろされるのは久々で新鮮でした」

「足元にいた女の子もまるで人形みたいに綺麗だったが、彼らは一体どういう関係なのだろうな?」

「どうでしょう。しかしこのご時世ですから、きっと単なる血縁以外の深い繋がりがあるのかもしれません。深く詮索するのは失礼にあたるかと」

「ふむ、それもそうか」

 つい出過ぎた発言をしてしまったと、瑞葉は反省する。

 ミハイルの言葉には大いに頷けた。丁度彼の言っていたような関係が身近に、それもつい最近出来上がったばかりなのだ。メールで一報を受けてからまだ本人と会ってはいないが、きっと上手くやっていけていることだろう。

 もし先の三人が同じような関係性なのであれば、幸せを願わずにはいられない。

 瑞葉は陰ながら、去り行く者たちの未来へ祈りを捧げた。

幕間につき短めです

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