十一 京都停戦予備協定
一月二十八日、午前十一時。
京都の会議場には、各国の代表団が集まっていた。
机の上には、協定文書が置かれている。
日本語と中国語で作成された文書だった。
署名に先立ち、榊原直人が短い挨拶を行った。
「本日、私たちは一つの合意に至りました」
榊原は、会議室を見渡した。
「しかし、これをもって戦争が終わったと宣言することはできません」
宋子文は、静かに聞いていた。
周恩来も、表情を変えなかった。
昭和日本の代表団は、緊張した面持ちだった。
「本協定は、あくまで予備的なものです。戦闘を停止するための手順を定め、民間人の保護を進め、今後の和平交渉の土台を作るものです」
榊原は、少し間を置いた。
「それでも、今日の合意には意味があります」
そして続けた。
「昨日まで敵として向き合っていた人々が、同じ机を囲み、互いの言葉を聞いたからです」
榊原は、文書へ目を落とした。
「この合意が、現地で命を守ることにつながるよう、私たちは責任を持って取り組まなければなりません」
挨拶が終わると、署名が始まった。
最初に、中国国民政府の宋子文が署名した。
続いて、昭和日本の代表。
そして、未来日本の代表として榊原直人が署名した。
中国共産党側の周恩来は、正式な条約当事者ではなく、停戦実施に関する協議参加者として別紙の確認文書に署名した。
それは、各勢力の政治的立場を反映した妥協だった。
署名が終わると、会議室には小さな拍手が起きた。
誰も立ち上がって歓声を上げたりはしなかった。
協定がどれほど脆いものか、出席者全員が理解していた。
それでも、文書は成立した。
京都停戦予備協定。
後に、歴史書にはその名で記されることになる。
しかし、その場にいた人々にとっては、まだ歴史ではなかった。
明日から守らなければならない約束だった。




