十五 夜明け前
一月二十一日。
京都。
夜明け前の街には、冷たい霧が漂っていた。
会議場の周辺では、警備員たちが配置についていた。
未来日本の警察官と、昭和日本の警察官。
異なる制服を着た人々が、同じ場所を守っていた。
真壁宗一郎は、会議場の入口に立っていた。
小野寺美咲が、隣に並んだ。
「いよいよですね」
小野寺が言った。
真壁は頷いた。
「ええ」
「緊張していますか」
「少し」
小野寺は、少し笑った。
「意外です」
「軍人も、人間ですからな」
真壁も笑った。
そのとき、遠くから車の列が近づいてきた。
中国国民政府の代表団だった。
続いて、昭和日本の代表団。
そして、未来日本の代表団。
榊原直人が車から降りた。
真壁は、敬礼した。
榊原は、軽く頭を下げた。
二人は、短く目を合わせた。
言葉は交わさなかった。
しかし、互いに何を考えているのかは、何となく分かった。
ここから先は、誰にも未来が分からない。
未来日本の歴史書にも、今日の会議については何も書かれていない。
なぜなら、史実には存在しなかった会議だからだ。
榊原は、会議場の扉へ向かった。
真壁は、その背中を見送った。
京都の空が、少しずつ明るくなっていた。
遠くで、鐘の音が響いた。
昭和十七年一月二十一日。
この日、歴史に存在しなかった和平会議が始まろうとしていた。
それは、戦争の終わりではなかった。
しかし、戦争を終わらせるための、最初の本格的な試みだった。
真壁は、冷たい朝の空気を吸い込んだ。
そして、静かに呟いた。
「今度こそ、間に合ってくれ」
その声は、誰にも聞こえなかった。
会議場の扉が、ゆっくりと閉じられた。




