十四 前夜の密談
その夜、京都市内の宿泊施設で、真壁宗一郎は宋子文と非公式に会談した。
通訳を介した、短い面会だった。
宋子文は、真壁を慎重な目で見た。
「あなたは、帝国陸軍の大佐だそうですね」
「はい」
「中国での戦争について、どうお考えですか」
真壁は、少し考えた。
「終わらせるべきだと考えています」
宋子文は、表情を変えなかった。
「日本軍の撤退を支持するのですか」
「条件次第では」
「条件?」
宋子文は、少し眉をひそめた。
「中国は、自国の領土から外国軍が撤退することを求めているのです」
真壁は頷いた。
「承知しています」
「それに、条件が必要なのですか」
真壁は、しばらく黙っていた。
そして、静かに答えた。
「現地には、日本人の民間人もおります」
宋子文は、真壁を見た。
「中国人の民間人もおります」
真壁は、頭を下げた。
「その通りです」
宋子文は、少し驚いたようだった。
真壁は続けた。
「私は、撤退そのものに反対しているわけではありません」
少し間を置いた。
「しかし、撤退の過程で新たな犠牲が出ることは避けたいのです」
宋子文は、しばらく真壁を見つめていた。
「あなたは、他の日本軍人とは少し違うようですね」
真壁は、首を振った。
「私も、帝国陸軍の軍人です」
「それでも、話はできそうです」
宋子文は、少し笑った。
真壁も、わずかに笑った。
「それは、ありがたいことです」
宋子文は、窓の外を見た。
京都の夜は、静かだった。
「大佐」
「はい」
「我々は、何年も戦ってきました」
真壁は頷いた。
「承知しています」
「中国では、多くの人々が死にました」
「はい」
「その責任を、どう考えますか」
真壁は、すぐには答えなかった。
宋子文は、黙って待っていた。
やがて、真壁が言った。
「私には、すべての責任を語る資格はありません」
宋子文は、真壁を見た。
「しかし、責任を避けるべきではないと思っています」
真壁は続けた。
「少なくとも、何が起きたのかを明らかにする必要があります」
宋子文は、しばらく黙っていた。
そして、静かに頷いた。
「その言葉を、明日の会議でも聞きたいものです」
真壁は、頭を下げた。
「努力いたします」




