十一 真壁と榊原
一月十六日。
真壁宗一郎は、未来日本の首相官邸を訪れた。
京都会議に向けた準備のためだった。
会議室へ案内されると、榊原直人が待っていた。
「真壁大佐」
「榊原総理」
二人は、握手を交わした。
榊原は、少し疲れた顔をしていた。
真壁は、それに気づいた。
「お疲れのようですな」
榊原は苦笑した。
「最近、あまり眠れていません」
「私もです」
二人は、少し笑った。
会議が始まる前、榊原は真壁へ尋ねた。
「大佐は、未来が変わることを怖いと思いますか」
真壁は、少し考えた。
「怖いと思います」
榊原は、顔を上げた。
「そうですか」
「私は、未来日本の資料で、自分が戦死することを知りました」
榊原は黙っていた。
「昭和十九年七月、サイパン島で死ぬそうです」
真壁は、静かに続けた。
「その未来を変えたいと思っています」
榊原は頷いた。
「当然だと思います」
「しかし、私が生き残れば、息子の人生も変わるかもしれません」
榊原は、真壁を見た。
「はい」
「未来日本の資料には、私の子孫についても記されていました」
真壁は、少し笑った。
「会ったこともない孫や曾孫がいるそうです」
榊原は、黙って聞いていた。
「私が生き残れば、その者たちは生まれないかもしれない」
真壁は、窓の外を見た。
「しかし、だからといって、予定どおり死ぬべきだとは思いません」
榊原は、静かに頷いた。
「私も、そう思います」
真壁は、榊原を見た。
「総理は、何かお悩みですか」
榊原は、少し迷った。
そして、机の引き出しから写真を取り出した。
「父です」
真壁は、写真を見た。
中央に写る男性の顔が、少しぼやけていた。
「写真が、変わり始めています」
榊原が言った。
真壁は、しばらく写真を見つめた。
「お父上は」
「昭和二十一年生まれです」
真壁は、顔を上げた。
昭和二十一年。
史実では、戦争が終わった翌年。
しかし、今の世界では、その未来はまだ決まっていない。
「そうですか」
真壁は、静かに言った。
榊原は、写真を見た。
「私は、戦争を止めたいと思っています」
「はい」
「しかし、その結果、父が生まれなくなるかもしれない」
榊原は、少し笑った。
「首相が、こんなことで悩んでいてはいけないのかもしれません」
真壁は、首を振った。
「いいえ」
榊原は顔を上げた。
「人間として、当然のことです」
真壁は続けた。
「総理が、ご自身の父上を失いたくないと思うことと、戦争を止めたいと思うことは、矛盾しているのかもしれません」
榊原は黙っていた。
「しかし、矛盾しているからといって、どちらかを簡単に捨てられるものではありません」
榊原は、写真を見つめた。
真壁は、少し間を置いて言った。
「私も、息子を守りたいと思っています」
そして続けた。
「しかし、息子を守るために、他人の息子を戦場へ送ることはしたくありません」
榊原は、真壁を見た。
二人は、しばらく黙っていた。
やがて、榊原が小さく頷いた。
「ありがとうございます」
真壁は、頭を下げた。
「いえ」




