八 重慶の夜
一月十二日。
重慶では、宋子文が会議の準備を進めていた。
未来日本から提供された資料には、中国の将来について、衝撃的な内容が含まれていた。
一九四九年の国共内戦の結末。
台湾への国民政府の移転。
中華人民共和国の成立。
その後の政治運動や社会の混乱。
宋子文は、資料を読みながら、何度も手を止めた。
もし、これが本当なら。
自分たちが戦っている戦争は、別の戦争の始まりにすぎないのかもしれない。
しかし、未来日本の資料が示す歴史は、すでに変わり始めている。
真珠湾攻撃は起きなかった。
米国は日本と戦争していない。
日本政府は、中国との和平を模索している。
この時点で、未来日本の歴史とは大きく異なっている。
宋子文は、資料を閉じた。
未来を知ることは、未来を確定することではない。
むしろ、未来を変える責任を負うことなのかもしれない。
その夜、宋子文は蒋介石と会談した。
「京都会議へ参加すべきと考えます」
宋子文が言った。
蒋介石は頷いた。
「条件は」
「日本軍の撤退、捕虜の扱い、民間人の保護、占領地の行政権返還」
蒋介石は、しばらく考えた。
「満洲については」
「当然、議題に含めるべきです」
蒋介石は頷いた。
「共産党はどうする」
宋子文は、少し間を置いた。
「未来日本は、彼らの参加も求めています」
蒋介石の表情が険しくなった。
「共産党を、中国の代表として認めるつもりはない」
「承知しています」
「しかし、和平のために話すことまで拒むつもりもない」
宋子文は、顔を上げた。
蒋介石は続けた。
「ただし、彼らに主導権を渡すな」
「承知しました」
蒋介石は、窓の外を見た。
重慶の夜は、暗かった。
戦争のため、灯火管制が続いている。
遠くでは、避難民の暮らす地区に小さな明かりが見えた。
「日本との戦争が終われば、中国は平和になると思っていた」
蒋介石は、静かに言った。
宋子文は黙っていた。
「しかし、未来の資料を見る限り、そう簡単ではないらしい」
少し間を置いた。
「ならば、今のうちにできることをしておくしかない」




