八 北太平洋
同じ頃。
北太平洋。
帝国海軍第一航空艦隊は、予定された作戦海域へ向けて進んでいた。
空母《赤城》《加賀》《蒼龍》《飛龍》《翔鶴》《瑞鶴》
艦隊司令長官、南雲忠一中将は、艦橋で報告を受けていた。
「司令長官」
参謀が近づいた。
「大本営から、緊急通信です」
「何だ」
「作戦の一時停止を検討中とのことです」
南雲は眉をひそめた。
「一時停止?」
「はい」
「理由は?」
参謀は答えにくそうにした。
「未来の日本が現れたため…、と」
南雲は、しばらく黙った。
「……何を言っている」
参謀は、無言で電文を差し出した。
南雲はそれを読んだ。
未来日本。
昭和十六年より八十五年先。
対米開戦の中止を要求。
機動部隊へ接触の可能性。
南雲は電文を机に置いた。
「大本営は、我々を試しているのか」
誰も答えなかった。
その時、見張員の声が響いた。
「右舷前方、艦影!」
艦橋の将校たちが一斉に動いた。
水平線の向こうに、灰色の艦影が見える。
速い。
駆逐艦に似ているが、形が違う。
高い艦橋。
複雑な構造物。
そして、見たことのない装備。
南雲は双眼鏡を構えた。
「高雄型?…いや違う…何だ、あれは」
参謀が答えた。
「不明です」
やがて、無線が入った。
『こちら日本国海上自衛隊、護衛艦まや』
南雲は、ゆっくりと双眼鏡を下ろした。
『帝国海軍第一航空艦隊に告ぐ。貴艦隊の進路上に、重大な危険が存在する』
艦橋は静まり返った。
『我々は交戦を望まない。司令長官との直接交信を求める』
南雲は、しばらく何も言わなかった。
それから参謀へ向き直った。
「日本国、だと?」
「はい」
「帝国ではないのか」
「そのようです」
南雲は、もう一度見知らぬ軍艦を見た。
灰色の船体は、波を切って進んでいる。
あれが八十五年後の日本海軍なのか。
いや。
海軍ではなく、海上自衛隊。
名前からして、何かが違う。
南雲は低い声で言った。
「未来の日本は、何と戦っているのだ」
誰も答えられなかった。
その問いへの答えを、南雲自身が知ることになるのは、もう少し後のことだった。




