六 北京の軍人
一月八日。
北京に駐屯する日本軍の一部では、和平交渉に対する反発が強まっていた。
若い将校たちは、未来日本の出現を帝国の危機と捉えていた。
彼らにとって、未来日本は敗北を知る国家だった。
しかし、その敗北を避けるために戦争をやめるという考え方は、容易には受け入れられなかった。
ある中尉は、宿舎で同僚に言った。
「我々は、まだ負けていない」
同僚は黙っていた。
「米国とも戦っていない。中国でも、まだ戦える」
中尉は続けた。
「それなのに、未来日本の言葉だけで撤退するのか」
同僚は、慎重に答えた。
「しかし、未来日本の資料では、帝国は敗れると」
「それがどうした」
中尉は、机を叩いた。
「未来が分かっているなら、変えればいい」
「どうやって」
「戦えばいいんだ」
同僚は、しばらく黙っていた。
そして、静かに尋ねた。
「誰と」
中尉は、答えに詰まった。
「米国か。中国か。それとも未来日本か」
同僚は続けた。
「全部を敵に回して、勝てると思うのか」
中尉は、何も言えなかった。
窓の外では、北京の冬の風が吹いていた。
遠くから、馬車の音が聞こえた。
中尉は、机の上の軍刀を見た。
自分は、戦うために軍人になった。
しかし、何のために戦うのか。
その問いに、以前ほど簡単には答えられなくなっていた。




