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昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


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十八 未来を売る者


十二月二十七日。

 上海。

 共同租界の一角にあるホテルで、一人の日本人が外国人と会っていた。

 男は、未来日本から来た民間人だった。

 名前は、佐伯和彦。

 三十一歳。

 時空間異常の発生以前は、情報通信関係の仕事をしていた。

 佐伯は、机の上に小型の電子機器を置いた。

「これには、未来の情報が入っています」

 向かいに座る外国人が尋ねた。

「どのような情報ですか」

「石油の埋蔵場所、工業技術、戦争の結果、政治家の名前」

 佐伯は、少し笑った。

「あなた方が欲しがるものは、たいてい入っています」

 外国人は、電子機器を見た。

「動くのですか」

「電池があるうちは」

「中身を確認できますか」

「もちろん」

 佐伯は、機器の画面を操作した。

 そこには、未来の地図や文書が表示された。

 外国人は、しばらく画面を見つめていた。

「興味深い」

「でしょう」

「いくらですか」

 佐伯は、少し考えた。

「金で払ってもらいたい」

「どの程度」

 佐伯は、紙に数字を書いた。

 外国人は、その数字を見て眉を上げた。

「高いですね」

「未来の情報ですから」

 佐伯は笑った。

「世界を変える値段としては、安いでしょう」

 外国人は、しばらく考えていた。

 やがて、静かに言った。

「少し、時間をいただきたい」

「構いません」

 佐伯は、電子機器を鞄へ戻した。

 しかし、その夜、佐伯はホテルの部屋で遺体となって発見された。

 所持していた電子機器は、消えていた。

 犯人は分からなかった。

 ホテルの従業員は、夜中に数人の男が廊下を歩いていたと証言した。

 しかし、誰も顔を覚えていなかった。

 上海の警察当局は、捜査を始めた。

 だが、事件はすぐに各国の情報機関の関心を集めることになった。

 未来の情報が、闇市場に流れ始めている。

 その事実は、未来日本政府にとって新たな脅威だった。

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