十五 未来の責任
十二月二十五日。
榊原直人は、首相官邸で三浦事件に関する報告を受けていた。
事件は、昭和日本との外交関係に重大な影響を与えかねなかった。
しかし、東條政府は早期に協力を申し出ており、神谷の拘束にも応じていた。
榊原は、その点を評価していた。
「昭和日本政府が、正式に謝罪する意向を示しています」
外務大臣が言った。
「分かりました」
「今後の再発防止についても、協議したいとのことです」
榊原は頷いた。
「受け入れましょう」
官房長官が尋ねた。
「神谷少佐の処遇は、どうされますか」
「昭和日本の軍人ですから、まずは昭和日本側の司法手続きに委ねることになります」
「未来日本の国民を誘拐しています」
「その点については、当然、こちらの捜査機関も関与すべきです」
榊原は、少し考えた。
「しかし、感情的な対立にしてはいけません」
官房長官は頷いた。
「はい」
榊原は、机の上の資料を見た。
そこには、未来日本の技術者に対する接触事例がまとめられていた。
航空機。
通信。
材料工学。
医薬品。
原子力。
さまざまな分野の研究者に、昭和日本や外国の関係者から問い合わせが寄せられている。
正規の学術交流もある。
純粋な好奇心からの質問もある。
しかし、中には、明らかに軍事利用を目的とした接触もあった。
「技術者を守る仕組みが必要ですね」
榊原が言った。
外務大臣は頷いた。
「はい」
「ただし、研究を止めるわけにはいきません」
「難しい問題です」
「分かっています」
榊原は、窓の外を見た。
東京の街には、冬の日差しが差し込んでいた。
「私たちは、未来の知識を持っています」
榊原は、静かに言った。
「しかし、その知識をどう扱うべきかについては、まだ何も決めていない」
官房長官は黙っていた。
「それでは、また同じことが起きます」
榊原は、資料を閉じた。
「未来の情報を管理するための制度を作りましょう」
「法律ですか」
「必要ならば」
外務大臣が尋ねた。
「どのような原則で」
榊原は、少し考えた。
「人命を救う知識は、できる限り共有する」
そして続けた。
「しかし、大量の人命を奪うための知識は、慎重に扱う」
官房長官は頷いた。
「その線引きが、難しくなります」
「そうでしょうね」
榊原は、苦笑した。
「それでも、決めなければならない」




