九 未来日本の食卓
その日の夕方、未来日本の福井県では、大野健司が仕事を終えて帰宅していた。
運送会社の仕事は、日に日に減っていた。
工場の生産停止が増え、長距離輸送の依頼も少なくなっている。
会社では、来月から一部の運行を休止するという話が出ていた。
大野は、居間のテレビをつけた。
ニュースでは、政府の緊急経済対策について報じていた。
燃料の優先供給。
食料の安定確保。
企業への資金繰り支援。
そして、昭和日本との経済協力。
妻が、台所から声をかけた。
「今日も仕事、少なかった?」
「ああ」
「来月は大丈夫なの?」
「分からん」
大野は、正直に答えた。
妻は黙った。
中学生の娘が、食卓で宿題をしていた。
「お父さん」
「何だ」
「昭和の日本って、貧しかったの?」
大野は、少し考えた。
「今よりはな」
「じゃあ、今の日本も貧しくなるの?」
大野は答えに困った。
テレビでは、専門家がエネルギー不足について説明していた。
海外から石油が届かない。
部品が届かない。
輸入食品も減る。
それでも、日本にはまだ工場があり、技術者がいて、農地もある。
問題は、それらを維持するための仕組みが、海外との交易に依存していることだった。
「すぐに全部なくなるわけじゃない」
大野は言った。
「でも、今までどおりにはいかんかもしれん」
娘は、少し考えた。
「じゃあ、昔の人みたいに暮らすの?」
「そう簡単じゃない」
大野は、苦笑した。
「昔の人には、昔の暮らし方があった。今の俺たちは、それを忘れちまってる」
妻が、食卓へ鍋を運んできた。
野菜の入った煮物だった。
「食べられるうちは、ちゃんと食べましょう」
大野は頷いた。
娘も箸を取った。
テレビでは、榊原首相の記者会見が始まっていた。
首相は、国民に冷静な対応を求めていた。
しかし、大野には、その言葉が少し遠く感じられた。
自分たちに必要なのは、立派な言葉ではない。
来月も仕事があること。
家族が飯を食えること。
娘が学校へ通えること。
ただ、それだけだった。




