七 ドイツ大使館
同じ頃、東京のドイツ大使館では、オイゲン・オット大使が報告書を読んでいた。
未来日本の出現は、ベルリンにとって重大な関心事となっていた。
ドイツ政府は、すでに昭和日本へ技術情報の提供を求めている。
しかし、東條内閣は慎重な姿勢を崩していなかった。
オットは、机の上に置かれた電報を見た。
ベルリンからの指示は明確だった。
未来日本との正式な接触を実現すること。
航空機、通信、兵器技術に関する情報を収集すること。
そして、未来の欧州戦争に関する資料を入手すること。
オットは、深く息を吐いた。
彼は軍人出身の外交官だったが、今回の任務には困惑していた。
未来から国家が現れた。
その国家は、ドイツの将来を知っているらしい。
しかも、ドイツが戦争に敗れると伝えている。
そんな話を、どう扱えばよいのか。
そこへ、部下が入室した。
「大使閣下」
「何だ」
「非公式の協力者から連絡がありました」
「神谷少佐の件か」
「はい」
オットは顔をしかめた。
「私は、彼らに独断で動くなと伝えたはずだ」
「そのように承知しております」
「では、なぜ技術者を連れ去った」
部下は答えなかった。
オットは、机を指で叩いた。
「愚かなことをしたものだ」
未来日本の技術者を誘拐する。
それが発覚すれば、ドイツ政府の正式な外交交渉にも影響が出る。
しかも、技術者を一人手に入れたところで、未来の航空機を製造できるとは限らない。
オットは、そのことを理解していた。
「ベルリンには、まだ報告するな」
「しかし」
「まず事実を確認する」
部下は頷いた。
オットは、窓の外を見た。
東京の空は、冬らしく澄んでいた。
ドイツは、遠く欧州で戦争を続けている。
東部戦線では、モスクワ攻略が行き詰まり、厳しい冬が兵士たちを苦しめていた。
その戦争の結末を、未来日本は知っている。
オットは、机の上の電報をもう一度見た。
もし未来日本の記録が正しいなら、ドイツはこの戦争に敗れる。
その事実をベルリンへ伝えれば、何が起きるのだろう。
ヒトラーは、未来の警告を受け入れるだろうか。
それとも、未来そのものを敵とみなすだろうか。
オットには、後者の可能性の方が高く思えた。




