九 米国の選択
ハワイでの会談は、二日目に入っていた。
ハル国務長官は、未来日本の存在について、米国政府が慎重な姿勢を取る理由を説明した。
「我々は、あなた方を敵と決めつけるつもりはありません」
榊原は頷いた。
「ありがとうございます」
「しかし、友人であると判断するにも、時間が必要です」
「理解しています」
ハルは、机の上の資料を指した。
「未来日本の航空機は、我々の技術を大きく上回っています」
「はい」
「その技術がドイツに渡れば、欧州の戦争はどうなるでしょう」
榊原は、少し考えた。
「大きく変わる可能性があります」
「ソ連に渡れば?」
「同じです」
「では、米国に渡れば?」
榊原は、ハルを見た。
「やはり、変わるでしょう」
ハルは頷いた。
「つまり、あなた方は世界の均衡を左右できる」
「そのような意図はありません」
「意図がなくても、力を持っていることは事実です」
榊原は黙った。
ハルは続けた。
「我々は、あなた方に中立を求めたい」
「中立ですか」
「少なくとも、現在の戦争において、特定の交戦国へ軍事技術を提供しないことです」
榊原は、少し考えた。
「その方針は、私たちの考えに近いものです」
「では、合意できますか」
「原則としては」
ハルは、少し眉を動かした。
「原則として?」
「人道目的の技術提供まで禁止することはできません」
「医療技術などですか」
「はい」
「軍事転用の可能性があっても?」
榊原は、すぐには答えなかった。
ハルは、静かに言った。
「あなた方は、未来の知識を持っている。しかし、我々は現在の戦争を戦っています」
その声には、疲労がにじんでいた。
「英国はドイツと戦い、ソ連もドイツと戦っている。中国では日本との戦争が続いている」
ハルは、榊原を見た。
「あなた方が何もしないことで、救えたはずの人々が死ぬかもしれません」
榊原は、言葉を失った。
未来の技術を渡せば、戦争が激しくなるかもしれない。
渡さなければ、戦争を早く終わらせる機会を失うかもしれない。
どちらが正しいのか。
答えは、簡単には出なかった。
「ハル長官」
榊原は、ゆっくりと言った。
「私たちは、未来から来ました」
ハルは頷いた。
「しかし、未来のすべてを知っているわけではありません」
榊原は続けた。
「まして、歴史が変わった今、これから何が起きるかは分かりません」
ハルは、しばらく黙っていた。
「では、あなた方は何を約束できますか」
榊原は答えた。
「少なくとも、私たちが新たな戦争を始める側にはならないことです」
ハルは、ゆっくり頷いた。
「それなら、交渉を続ける価値があります」




