七 トラックの列
未来日本では、物流が少しずつ乱れ始めていた。
福井県の運送会社で働く大野健司は、午前四時に営業所へ出勤した。
三十九歳。
大型トラックの運転手として、北陸と関西の間を走っている。
その朝、配車担当者から渡された運行表は、いつもより薄かった。
「今日の荷物、これだけですか」
大野が尋ねると、配車担当者は疲れた顔で頷いた。
「工場からの出荷が止まった」
「またですか」
「部品が入ってこないらしい」
大野は、運行表を見た。
大阪方面への配送が一件。
帰り荷は未定。
「軽油は?」
「今のところ入る。ただ、来週から給油量を制限するかもしれん」
大野は顔を上げた。
「制限?」
「政府が燃料の優先供給を検討してる」
「運送屋が走れなくなったら、店に物が届かなくなりますよ」
「だから、食料と医薬品を優先するんだと」
大野は黙った。
営業所の外には、トラックが並んでいた。
どの車両も、つい数日前までは当たり前のように走っていた。
しかし、今は荷物がない。
あるいは、荷物があっても燃料が足りない。
大野は、運転席に乗り込んだ。
エンジンをかける。
いつもと変わらないディーゼルエンジンの音が響いた。
彼は、その音を聞いて少し安心した。
しかし、同時に思った。
この音を、あと何日聞けるのだろう。
高速道路へ向かう途中、コンビニエンスストアに立ち寄った。
棚には、空いている場所が目立った。
カップ麺。
缶詰。
米。
保存の利く食品が、次々に売れているらしい。
レジの女性が言った。
「今日は大阪ですか」
「ええ」
「気をつけてくださいね」
大野は笑った。
「いつもどおりですよ」
しかし、店を出た後、彼は少し考えた。
いつもどおり。
その言葉が、妙に遠く感じられた。




