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昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


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十七 最初の警告


十二月十三日、午後十一時。

未来日本。

首相官邸。

榊原直人は、帰宅しようとしていた。

そこへ、官房長官が駆け込んできた。

「総理」

「どうしました」

「緊急報告です」

榊原は、鞄を置いた。

「何が起きたんです」

官房長官は、一枚の資料を差し出した。

「昭和日本の陸軍内部で、不穏な動きがあります」

「不穏?」

「対米開戦の延期と、未来日本との協議に反対する将校たちが、秘密裏に会合を開いているようです」

榊原は、資料を読んだ。

「規模は」

「不明です」

「目的は」

「東條内閣への圧力、場合によっては強硬な行動に出る可能性もあります」

榊原は、しばらく黙った。

真珠湾攻撃を止めた。

しかし、それで昭和日本の軍部が納得したわけではない。

むしろ、開戦を望んでいた者たちにとって、未来日本は国家の方針を変えた異物だった。

榊原は、資料を置いた。

「東條総理には伝えましたか」

「昭和日本側の連絡機構を通じて、警告を送っています」

「分かりました」

榊原は、窓の外を見た。

東京の夜景が広がっていた。

遠くで、赤い航空障害灯が点滅している。

八十五年前の東京には、こんな光はない。

しかし、そこにも同じように、夜を過ごす人々がいる。

家族を待つ人。

仕事を終えて帰る人。

明日の生活を心配する人。

榊原は、静かに言った。

「歴史は、簡単には変わらないんですね」

官房長官は、答えなかった。

そのとき、机の電話が鳴った。

外務省からだった。

榊原が受話器を取る。

『総理、米国政府から正式な回答がありました』

「内容は」

『未来日本との首脳会談を受け入れるとのことです』

榊原は、少し息を吐いた。

「場所は」

『ハワイです』

榊原は、窓の外を見た。

真珠湾。

本来なら、戦争が始まった場所。

しかし、この世界では、まだ戦争は始まっていない。

「分かりました」

榊原は答えた。

「準備を進めてください」

受話器を置く。

官房長官が尋ねた。

「総理、どうされますか」

榊原は、少し考えた。

「行きます」

「ハワイへ?」

「はい」

榊原は、机の上の地図を見た。

太平洋。

日本。

ハワイ。

アメリカ。

そして、昭和十六年の世界。

「戦争が始まらなかった場所で、これからの話をしましょう」

官房長官は、ゆっくり頷いた。

榊原は、窓の外を見た。

東京の夜は、静かだった。

しかし、その静けさの向こうで、世界は確実に動き始めていた。

ドイツは、未来の兵器を欲しがっている。

ソ連は、未来日本を警戒している。

中国は、戦争を終わらせる機会を探している。

昭和日本の軍部には、開戦延期を認めない者たちがいる。

そして、未来日本自身は、エネルギーと食料の危機に直面している。

歴史を変えるということは、単に過去の出来事を消すことではなかった。

そこに生きる人々の利害を変え、国家の選択を変え、世界の均衡を変えることだった。

榊原は、ようやくそのことを理解し始めていた。

時計の針が、午前零時に近づいていた。

昭和十六年十二月十四日。

新しい歴史は、まだ始まったばかりだった。

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