十六 東條の決断
昭和十六年十二月十三日。
東京。
首相官邸。
東條英機は、未来日本との協議結果を読んでいた。
正式な国交樹立には至らなかった。
しかし、双方の主権を尊重すること、軍事衝突を避けること、経済協力を進めることについて、一定の合意が得られた。
東條は、資料を閉じた。
「悪くない」
真壁が頷いた。
「はい」
「しかし、問題はこれからだ」
「その通りです」
東條は、机の上の中国大陸の地図を見た。
「中国との戦争を、どうする」
真壁は、少し考えた。
「未来日本は、戦争終結の仲介を提案しています」
「知っている」
「受け入れるべきかと存じます」
東條は、真壁を見た。
「簡単に言うな」
「承知しております」
「陸軍が、容易に撤兵を受け入れると思うか」
「思いません」
「では、どうする」
真壁は、しばらく黙っていた。
そして、答えた。
「時間をかけて、説得するしかありません」
東條は、苦笑した。
「それができれば、苦労はせん」
真壁も、少し笑った。
しかし、すぐに真顔に戻った。
「総理」
「何だ」
「未来日本の資料には、中国での戦争がさらに長引き、多くの人々が亡くなると記されています」
東條は黙っていた。
「その未来を変えるには、今、何かを始めなければなりません」
東條は、しばらく考えた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「分かった」
真壁は顔を上げた。
「中国との停戦交渉を検討する」
真壁は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
東條は、机の上の地図を見た。
「ただし、未来日本の言うとおりにするわけではない」
「承知しております」
「我々自身の判断で、道を選ぶ」
真壁は頷いた。
「はい」
東條は、窓の外を見た。
東京の街には、冬の夕暮れが訪れていた。
八十五年後の日本は、戦争に敗れた後も生き残った。
ならば、戦争に敗れずに生き残る道も、あるのではないか。
東條は、そう考え始めていた。
しかし、その道がどこへ続いているのか、まだ誰にも分からなかった。




