十五 もう一つの十二月十三日
十二月十三日。
未来日本の国立歴史資料館では、研究者たちが再び集まっていた。
真珠湾攻撃は起きなかった。
しかし、未来日本の歴史書には、今も真珠湾攻撃の記録が残っている。
写真も、映像も、証言も消えていない。
研究者たちは、それを確認し続けていた。
「変化はありませんか」
教授が尋ねた。
若い研究者が答えた。
「今のところ、ありません」
「そうか」
「ただ、一つ気になることがあります」
教授は顔を上げた。
「何だ」
「昭和日本の歴史が変わったのに、私たちの記録が変わらないのは、なぜでしょう」
教授は、しばらく考えた。
「分からん」
「未来日本は、元の歴史から切り離されたのでしょうか」
「その可能性はある」
「では、私たちは消えないんでしょうか」
教授は、若い研究者を見た。
「それも分からん」
若い研究者は、少し笑った。
「分からないことばかりですね」
教授も笑った。
「歴史学というのは、もともとそういうものだ」
教授は、展示室の写真を見た。
焼け野原の東京。
原爆投下後の広島。
沖縄戦。
終戦。
戦後復興。
高度経済成長。
それらは、未来日本の人々が生きてきた歴史だった。
しかし、昭和日本にとっては、まだ起きていない未来だった。
教授は、静かに言った。
「歴史というのは、過去に起きたことの記録だと思っていた」
若い研究者は黙って聞いていた。
「だが、今は違う」
教授は、写真を見つめた。
「我々は、起きなかった歴史を持っている」
その言葉は、展示室の静けさの中に残った。




