十四 京都の夜
十二月十二日の夜。
京都。
榊原直人は、会談を終えた昭和日本の代表団と非公式に面会していた。
その中には、真壁宗一郎もいた。
榊原は、真壁に声をかけた。
「真壁大佐」
「はい」
「未来日本をご覧になって、どう思われましたか」
真壁は、少し考えた。
「驚きました」
「何にですか」
「何もかもです」
榊原は笑った。
真壁は続けた。
「しかし、一番驚いたのは、街の人々でした」
「人々?」
「はい」
真壁は、窓の外を見た。
京都の街には、明かりが灯っていた。
「皆、戦争のことを考えていないように見えました」
榊原は、少し考えた。
「そうかもしれません」
「軍人の姿も、ほとんど見ませんでした」
「自衛隊員はいますが、普段は街中で軍服を着て歩くことは多くありません」
真壁は頷いた。
「我々の時代とは違いますな」
「はい」
「それでも、国は成り立っている」
榊原は、真壁を見た。
「成り立っています」
真壁は、しばらく黙っていた。
「榊原総理」
「はい」
「私は、軍人です」
「存じています」
「軍人として、国家を守ることを教えられてきました」
榊原は黙って聞いた。
「しかし、今日、この街を見て思いました」
真壁は、少し間を置いた。
「国家を守るというのは、軍隊を守ることではないのですな」
榊原は、ゆっくり頷いた。
「そう思います」
真壁は、窓の外を見た。
「人々が、普通に暮らせること」
その声は、静かだった。
「それを守るのが、国家の役目なのかもしれません」
榊原は、しばらく答えられなかった。
やがて、静かに言った。
「私も、そう思います」
二人は、しばらく京都の夜景を眺めていた。
八十五年の時間を隔てた二人の日本人が、同じ街を見ていた。
しかし、その街の意味は、二人にとって違っていた。
真壁にとって、それはまだ訪れていない未来だった。
榊原にとって、それは失われかけている現在だった。




