十三 世界が欲しがるもの
十二月十二日。
未来日本政府には、各国からの接触要請が殺到していた。
米国。
英国。
ドイツ。
ソ連。
中国国民政府。
そして、各地の亡命政府や外交機関。
誰もが、未来日本に関心を持っていた。
しかし、その目的は同じではなかった。
米国は、未来日本の軍事力と国際秩序への影響を知りたがっていた。
英国は、ドイツとの戦争を有利に進めるための情報を求めていた。
ドイツは、未来の兵器技術に強い関心を示していた。
ソ連は、未来日本がドイツへ情報を渡すことを警戒していた。
中国国民政府は、昭和日本との戦争を終わらせるため、未来日本に仲介を求めていた。
榊原は、各国からの文書を読みながら、頭を抱えていた。
「全員が、未来を教えろと言っている」
外務大臣が頷いた。
「はい」
「しかし、未来を教えれば、その未来は変わる」
「その通りです」
「それでも、教えないわけにはいかない」
外務大臣は、少し考えた。
「すべてを教える必要はありません」
榊原は顔を上げた。
「どういうことです」
「未来の技術と、未来の歴史は分けて考えるべきです」
「続けてください」
「医療、農業、災害対策など、人命を救う技術は共有する余地があります。しかし、兵器技術や軍事作戦、将来の指導者の運命については慎重であるべきです」
榊原は頷いた。
「確かに」
「ただし、問題があります」
「何です」
「どこまでが平和利用で、どこからが軍事利用なのか、明確に分けられないことです」
榊原は黙った。
通信技術。
航空技術。
材料工学。
原子力。
それらは、平和にも戦争にも使える。
未来日本が医療技術を提供すれば、兵士の救命にも役立つ。
農業技術を提供すれば、戦争を続ける国家の食料生産も増える。
技術は、使う人間の目的によって意味が変わる。
榊原は、窓の外を見た。
「私たちは、神様じゃないんですね」
外務大臣が答えた。
「はい」
榊原は、少し笑った。
「未来から来たからといって、何でも正しく判断できるわけじゃない」
「その通りです」
榊原は、机の上の資料を閉じた。
「では、まず原則を決めましょう」
「原則ですか」
「人命を救う技術は、可能な限り共有する。大量殺傷につながる技術は、提供しない」
外務大臣は頷いた。
「ただし、例外の判断は難しくなります」
「分かっています」
榊原は答えた。
「それでも、何も決めないよりはいい」




