十二 同じ国歌
協議終了後、昭和日本の代表団を迎える小規模な夕食会が開かれた。
会場は、京都市内のホテルだった。
昭和日本の官僚たちは、料理を前にして戸惑っていた。
見慣れない食材。
見慣れない調理法。
しかし、味噌汁と白米が出されると、ようやく表情が和らいだ。
「これは、我々の時代と変わりませんな」
昭和日本の代表が言った。
未来日本の代表が笑った。
「日本人ですから」
会場には、少しずつ会話が生まれた。
昭和日本の官僚が、未来日本のテレビについて尋ねた。
未来日本の職員が、昭和日本の鉄道について聞いた。
互いに知らないことばかりだった。
しかし、共通するものも多かった。
言葉。
食事。
礼儀。
そして、故郷の話。
宴も終わりに近づいた頃、昭和日本の代表が言った。
「一つ、お願いがあります」
未来日本の代表が尋ねた。
「何でしょう」
「貴国の国歌を聞かせていただけませんか」
会場が静かになった。
未来日本の代表は、少し驚いた。
「国歌ですか」
「はい」
「私たちの国歌は、君が代です」
昭和日本の代表は、目を見開いた。
「同じなのですか」
「はい」
「八十五年後も?」
「はい」
昭和日本の代表は、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと笑った。
「それは、嬉しいことです」
やがて、会場に国歌が流れた。
二つの時代の日本人が、静かに耳を傾けた。
歌詞は同じだった。
旋律も同じだった。
しかし、その歌が背負っている歴史は違っていた。
昭和日本にとって、それは帝国の国歌だった。
未来日本にとって、それは戦争と敗戦を経て、なお受け継がれた国歌だった。
歌が終わると、しばらく拍手は起きなかった。
誰もが、何かを考えていた。




