十一 海の向こうの交渉
十二月十一日。
未来日本と昭和日本の代表団は、初めて正式な実務協議を行った。
場所は、未来日本側の京都。
昭和日本の代表団は、海上輸送と航空輸送を組み合わせて到着した。
京都駅に降り立った昭和日本の官僚たちは、目の前の光景に言葉を失った。
巨大な駅舎。
電光掲示板。
自動改札機。
人々が持つ小さな通信機器。
そして、街を走る自動車。
代表団の一人が呟いた。
「これが、日本か」
案内役の外務省職員が頷いた。
「はい」
「米国ではなく?」
「日本です」
官僚は、しばらく街を見つめていた。
「信じられん」
その日の協議では、まず双方の国家としての立場が確認された。
未来日本は、昭和日本の主権を尊重する。
昭和日本は、未来日本の国家としての実在を認める。
両国は、互いの領域への無断侵入を禁止する。
軍事行動については、事前の連絡と協議を原則とする。
民間船舶の航行については、暫定的な安全航路を設定する。
そして、外交代表部の設置について協議を続ける。
合意は、慎重に積み重ねられた。
しかし、最大の問題は残っていた。
未来日本の軍事力だった。
昭和日本の代表が尋ねた。
「貴国の自衛隊は、どの程度の戦力を有しているのですか」
未来日本の代表は、慎重に答えた。
「詳細については、現時点で公表できません」
「同じ日本人ではありませんか」
「同じ日本人であっても、国家としての安全保障上の情報は別です」
昭和日本の代表は、不満そうな顔をした。
「我々を信用していないのですか」
未来日本の代表は、少し間を置いた。
「信用を築くために、今日ここへ来ています」
その言葉に、昭和日本の代表は黙った。
会談は、夕方まで続いた。
最終的に、両国は暫定的な共同連絡機構を設置することで合意した。
正式な国交樹立には至らなかった。
しかし、二つの日本が、初めて対等な国家として向き合った日となった。




