四 真壁宗一郎
昭和十六年十二月七日。
東京。
陸軍参謀本部。
真壁宗一郎大佐は、午前六時過ぎから会議室に呼び出されていた。
机の上には、見たことのない写真が並んでいる。
巨大な航空機。
海上を高速で進む軍艦。
高層建築。
そして、夜の東京。
街全体が、まるで星空のように光っていた。
「米国の宣伝工作ではありませんか」
若い参謀が言った。
別の参謀が答える。
「ならば、あの航空機はどう説明する」
「模型かもしれません」
「模型が時速数百里で飛ぶか」
議論は堂々巡りだった。
真壁は黙って写真を見ていた。
一枚だけ、気になるものがあった。焼け野原になった都市の写真である。
見覚えのある建物が残っていた。
東京だった。
「これは何だ」
真壁が尋ねた。
情報将校が答えた。
「未来日本から提供されたものです」
「未来日本?」
「昭和十六年より八十五年先の日本を名乗る国家です」
真壁は写真を持ち上げた。
「どこの街だ」
「東京です」
「馬鹿な」
思わず声が出た。
写真の中の東京には、建物がほとんど残っていない。
道路には瓦礫が積もり、焼けた柱が無数に立っている。
「いつだ」
真壁が尋ねた。
「昭和二十年三月以降と」
「原因は」
情報将校は、一度ためらった。
「米軍による空襲だそうです」
真壁は写真を机に置いた。
「そんなことがあるものか」
誰も答えなかった。
真壁は、別の資料を手に取った。
そこには、戦艦大和の沈没について記されていた。
昭和二十年四月七日。
沖縄へ向かう途中、米軍機の攻撃によって沈没。
真壁は目を細めた。
大和。
帝国海軍が建造している巨大戦艦。
その存在は軍内でも限られた者しか知らない。
なぜ未来人は、その名を知っているのか。
「この資料は」
真壁が言った。
「誰が書いた」
「未来日本の歴史研究者です」
「未来では、これが歴史になっているのか」
「そのようです」
真壁は、しばらく黙った。
歴史。
その言葉が妙に重かった。
今、自分たちが生きているこの時代が、彼らにとっては過去なのだ。
そして、その過去の結末を、彼らはすでに知っている。




