九 昭和の少年
十二月十日、午後。
昭和日本の東京。
真壁宗一郎は、久しぶりに自宅へ戻った。
玄関を開けると、息子の宗太郎が走ってきた。
「父さん!」
真壁は、少し驚いた。
「どうした」
「未来の日本って、本当にあるの?」
真壁は靴を脱ぎながら頷いた。
「あるらしいな」
「父さん、見たの?」
「写真は見た」
「すごい?」
真壁は笑った。
「すごいぞ」
宗太郎は目を輝かせた。
「どんなものがあるの?」
「空を飛ぶ飛行機がある」
「飛行機なら、今もあるよ」
「今のものより、ずっと速い」
「どれくらい?」
「そうだな……」
真壁は、少し考えた。
「東京から大阪まで、あっという間だ」
宗太郎は驚いた。
「そんなに?」
「そうだ」
「じゃあ、汽車はいらなくなるの?」
真壁は笑った。
「いや、汽車もあるらしい」
「どんな汽車?」
「ものすごく速い汽車だ」
宗太郎は、ますます目を輝かせた。
「乗ってみたいな」
真壁は、息子の顔を見た。
未来日本の資料には、宗太郎が戦後に新聞記者になったと書かれていた。
その人生は、父が戦死した後に始まった。
しかし、今、目の前にいる宗太郎は、まだ十二歳の少年だった。
未来を知らない。
父が死ぬことも知らない。
自分が新聞記者になることも知らない。
真壁は、息子の頭に手を置いた。
「宗太郎」
「何?」
「お前は、大きくなったら何になりたい」
宗太郎は、少し驚いた顔をした。
「前にも言ったよ」
「もう一度聞きたい」
宗太郎は、少し照れくさそうに答えた。
「新聞記者」
真壁は頷いた。
「そうか」
「父さんは、軍人になれって言うんでしょ」
真壁は首を振った。
「いや」
宗太郎は、目を丸くした。
「いいの?」
「ああ」
真壁は笑った。
「好きなことをやれ」
宗太郎は、しばらく父の顔を見つめていた。
そして、嬉しそうに笑った。
「うん!」
真壁は、その笑顔を見ていた。
未来の歴史が変われば、息子の人生も変わる。
しかし、それでいい。
息子が自分の意思で生きられるなら、それでいい。
真壁は、そう思った。




