四 父親の年齢
真壁宗一郎は、未来日本から届いた家族調査資料を読んでいた。
昭和十六年の自分には、妻と十二歳の息子がいる。
未来日本の記録によれば、自分は昭和十九年に戦死する。
妻は戦後、息子を育てながら生きた。
息子は新聞記者になり、結婚し、二人の子供をもうけた。
その子供たちにも、それぞれ家族ができた。
資料には、真壁の曾孫にあたる人物の名前まで記されていた。
真壁は、その一人の写真を見つめた。
三十代半ばの男だった。
顔立ちは、どことなく自分に似ている。
しかし、服装はまるで違った。
軍服ではない。
紺色の背広に、細いネクタイ。
背景には、見たこともない高層建築が写っていた。
真壁は、その写真を机に置いた。
「妙なものだな」
隣にいた若い将校が尋ねた。
「何がでありますか」
「まだ生まれてもいない子孫の顔を見るというのは」
将校は笑った。
「羨ましいことであります」
「そうか」
「自分にも、子供ができるのでしょうか」
真壁は、その将校を見た。
まだ二十代半ばだった。
独身で、将来を嘱望されている。
未来日本の資料には、彼の名前もあった。
昭和十八年、南方で戦死。
結婚することはなかった。
真壁は、答えられなかった。
将校は、そんなことを知らずに続けた。
「未来日本の記録を調べれば、分かるのでしょうな」
「調べるな」
真壁は、思わず言った。
将校は驚いた。
「は?」
真壁は、少し間を置いた。
「未来を知れば、今を生きられなくなることもある」
将校は、真壁を見つめた。
「大佐殿は、ご自身の未来をご覧になったのでありますか」
真壁は、答えなかった。
窓の外では、冬の日差しが弱くなり始めていた。
「見ない方がいいこともある」
真壁は、それだけ言った。
将校は、しばらく黙っていた。
そして、敬礼した。
「承知しました」
真壁は、机の上の写真を裏返した。
自分の子孫は、確かに存在している。
しかし、これから歴史が変われば、その子孫は生まれないかもしれない。
あるいは、まったく違う人生を歩むかもしれない。
真壁は、初めて未来日本の人々を気の毒に思った。
彼らは未来を知っている。
だが、その未来が自分たちの手で失われていくのを、見届けなければならないのかもしれない。




